近年、自動車が高速道路を逆走するといったニュースが相次いでいます。道路を逆走しただけではなく、他の自動車と正面衝突し、結果自動車が大破し大怪我や時には人命が失われることも少なくありません。
このような逆走事故が起こるケースとしては、運転者が降り口を間違え慌ててターンし元の車線に戻ろうとする場合や、SAから本線に戻る場合に誤って逆方向の車線に進入してしまった場合などが考えられます。また、運転者の高齢化により認識能力が衰え、高速道路の出入口を間違えてしまうといった場合もあります。
以下では、もし高速道路を逆走してしまった場合、法律的にどのような罰則や処分が課せられるのかについて紹介します。
■高速道路逆走で事故を起こすと重い罪に
まず、故意に高速道路を逆走して事故を起こし、人を死亡または負傷させた場合、自動車運転死傷行為処罰法(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律)の「危険運転致死傷罪」にあたります。
同罪の刑は、逆走して人が死亡した場合は1年以上(20年以下)の懲役、負傷させた場合は15年以下の懲役と定められています。
結果の重大性からすると、このように重い罪に問われることはやむを得ないでしょう。
行政処分としては「減点62点(死亡)又は55点(負傷)」と定められています(道路交通法施行令)。
なお、過失により道路を逆走し、人を死傷させた場合は、同法の「過失運転致死傷罪」にあたり、7年以下の懲役もしくは禁固又は100万円以下の罰金に処せられます。
■逆走しても事故を起こさなければ処罰は軽くなる
一方で、ただ逆走しただけで事故を起こさず、人が死傷しなかった場合、適用される処罰・処分は大きく変わってきます。
まず、人が死傷していないということで、上記の危険運転致死傷罪には該当しません。
道路交通法という交通の安全や危険防止を図るための法律により、処罰が科せられることになります。
道路の逆走について、道路交通法では、自動車が本来の通行部分と異なる部分を通行した場合として、「通行区分違反」の行為と扱っており「3月以下の懲役または5万円以下の罰金」の刑事罰が定められています(道路交通法119条第1項2の2)。
さらに、行政処分として「反則金9,000円(普通車の場合)」及び「減点2点」と定められています(道路交通法施行令)。
ただし、反則金納付制度により、上記反則金を納付すれば刑事罰が科せられることはありません。
また、通行区分違反の行為については過失犯の定めはなく、過失(うっかり)で逆走したとしても処罰を受けることはありません。
このように、逆走行為は大事故に繋がりかねない大変危険な行為である一方で、法律上定められている処罰は比較的軽微なものであるのが実情です。
■逆走事故の過失割合は原則「100:0」
逆走事故に伴い損害が発生した場合、損害賠償金の支払いについて、逆走車両と他の車両との間での過失割合が問題となります。
逆走行為は、それ自体が罪となる行為ですので、事故を起こした場合の過失割合も、基本的には逆走車両に一方的に過失があるとされ、原則として「加害者側(逆走):被害者側=100:0」となります。
ただし、被害者側も、逆走してくることを早い時点で遠方から認識し得たにも拘わらず、何も回避措置をとることなく漫然と車を進行していたような場合など、不注意があったとして過失が認められる場合がないわけではありません。
相手方の違反行為により損害を被ったとしても、やはり運転者自身も自動車を運転する際には注意をすることが必要です。
■逆走した人が認知症を患っていたら過失を免れる?
まず、認知症を患っている者が高速道路を逆走し、事故を起こして人を死傷させた場合、運転行為に過失があると判断されると、自動車運転死傷行為処罰法の過失運転致死傷罪により処罰されます。
この場合に科せられる刑は、7年以下の懲役もしくは禁固又は100万円以下の罰金です。
ただ、負った怪我の程度が軽く、また量刑を定めるにあたって斟酌すべき事情(情状)がある場合には、任意的に刑を免除することができます。
一方で、運転者が重度の認知症を患っており、そもそも責任能力がないというような場合、刑事責任が問われないケースもあります。
この場合、民事上の損害賠償についても責任能力がないとして、賠償責任を負わないことになります(民法713条)。
ただ、運転者を監督すべき者がいる場合には、監督義務を怠ったとしてその者が損害賠償義務を負うことはあり得ます(民法714条)。
なお、高齢者による交通事故の増加に伴い、道路交通法が平成29年の3月に改正されました。
それによると、高齢者の免許更新時や一定の違反行為の際に、認知機能の検査が義務付けられ、認知症のおそれがあるとされた高齢者には、特別の高齢者講習が課されることになりました。
運転手の高齢化に伴う交通事故の増加をいかに抑えるか、今後の大きな課題といえます。
*著者:弁護士 渡部孝至(弁護士法人はるかぜ法律事務所代表弁護士。『身近な弁護士』をモットーに、ご依頼者様の目線で親切・丁寧・迅速な対応を行い、リーズナブルなご費用で良質なサービスを提供することを使命としている。)
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