パソコンの遠隔操作ウイルス事件で威力業務妨害などの罪に問われた元IT関連会社社員片山祐輔氏は12日の初公判で、「徹頭徹尾、事実無根です」と述べ無罪を主張したそうです。
片山氏が起訴された事件は9つにも及びその社会的影響はかなり大きなものだったことから真相究明が待たれるところですが、片山氏の供述通り何もやっていなということであれば、冤罪を生む可能性もあり、これもまた大きな問題です。
今回は、冤罪にまつわる法知識を3つ、まとめて紹介したいと思います。
■冤罪が起きてしまう仕組み
まずそもそも冤罪はなぜ起きてしまうのでしょうか。
これにはいろいろな理由があると思いますが、よく言われる「人質司法」と「自白偏重」が挙げられると思います。
「人質司法」というのは、被疑者・被告人を逮捕・勾留し続けることで、捜査機関が身柄を長期確保することで、その間に自白を迫ったり、捜査機関の意に沿った供述を得ようとするものを指す言葉です。
身柄拘束は、快適なホテルなどでされるわけでは当然なく、拘置所や代用監獄といった施設において行われます。そこではいろいろな自由は制限されることになり、外部との連絡も自由に取れるわけではありません(しかも、接見禁止がつけば弁護人以外は基本的に会うこともできなくなります)。
このようなストレス下におかれた状況で、しかも自分の言い分をまったく聞いてもらえないという状況が延々と続くのです。そこで、認めてしまえば楽になれるという思いにかられて、やってもいないことを「自白」してしまうということになります。
そして、自白は調書に取られるわけです。調書は自分が言ったことをそのまま書き取ってもらえるものと誤解している方も多いと思いますが、必ずしもそういうわけではありません。
捜査機関は事件のストーリーを持っているので、そのストーリーに当てはめる形で被疑者の「自白」を入れ込み、あるいは誘導をすることにより都合の良い言葉を引き出し、場合によっては勝手に言葉を補うなどして、矛盾のないストーリーを語る調書が作られるのです。
このような自白調書が作られてしまうと、後から「あれは取り調べがつらくて嘘の自白をしたものだ」という主張をしても、「自分に不利なことを自ら認めることは通常あり得ない」として、なかなか受け入れられません。これが「自白偏重」ということです。
このように、自白を迫られてしまう仕組み、また、その自白を容易に撤回できない仕組み(あるいは実務上の扱い)というのが冤罪を生み出す一つの大きな理由になっていると思います。
さらに言うと、このような仕組みを運用しているのは捜査機関の意識・体質に他なりません。「犯人と目される人物が犯人だろう」と考えるのは、捜査機関としてある意味自然なことではあると思いますが、冤罪を生んでしまえば真犯人が野放しになってしまうわけなので、改めるべきところは改める必要があると思います。
■冤罪を防ぐには
冤罪は捜査機関の行き過ぎが原因の一つであると考えられます。そのため、捜査機関の行き過ぎを監視する仕組みを作ることが必要と言えます。
そこで、取調べの可視化をはじめとした様々な施策が提言されています。たとえば、取調べの弁護人の立会を認めること、身柄解放のための制度(保釈など)の実効化などが挙げられます。
現状では、裁判員裁判の対象になる一部の事件について、取調べの一部を録音・録画する試みが始まっていますが、取調官に都合のよい部分だけを録画する可能性があり、自白強要を防ぐことはできるとはいえず、かえって危険ですらあります。そのため、可視化は取調べの全過程を録音・録画する必要があるといえます。
■冤罪だった場合の補償
起訴されたものの無罪の裁判を受けた(冤罪だった)場合、国は何か補償をすることはあるのでしょうか。この点については、「刑事補償法」という法律があり、国に対して補償を求めることができます。
気になるのはいくらなのかということだと思いますが、たとえば抑留又は拘禁に対する補償としては「1日1,000円以上12,500円以下の割合による額」とされています。
この金額をどう捉えるかというのは人それぞれだと思いますが、私個人の意見としては「数年以上の人生を浪費させて、また、それまで築き上げてきた人間関係を破壊しておいて、『この程度の金額か』」と思います。この点も改正を図っていくべき点なのではないでしょうか。
「刑事事件など自分には関係ない」「刑事事件を起こす人は特殊な人だ」と思っている人がほとんどだと思いますが、実はそんなことはありません。
事件を起こすのは「ごく普通の人」であり、また、冤罪として巻き込まれる可能性もあります。
他人のこととしてではなく、一度「自分のこと」として考えてみるのもよいのではないでしょうか。