ここ数年、各自動車メーカーが運転する必要のない自動運転車の開発競争を続けています。なかでも技術力がもっとも高いと言われていたのがGoogleです。
圧倒的な資金力をベースに開発を進め、公道でのテストを重ねており、近年に実用化されるものとみられていました。ところが昨年12月になり、突如完全自動運転車開発の一時凍結を宣言。やはり一筋縄ではいかないようで、もう少々時間がかかるようです。
しかし、そう遠くない将来自動運転車が実用化されるとみられており、タクシードライバーやバス運転士は職を失う日が来るかもしれません。人間はどうしてもミスをしてしまう生き物ですから、道を間違えることもあり、イライラすることもあります。
また、料金に直結するメーターもたびたびトラブルのもとになります。ドライバーの不注意で押し忘れて走っていたのにも関わらず、メーターと異なる料金を請求されようものなら、納得できないお客さんもいるでしょう。
仮にそのようなことが発生してしまった場合、利用客は請求通りの金額を支払うべきなのでしょうか? エジソン法律事務所の大達一賢弁護士に見解を伺いました。
Q.タクシー運転手がメーター押し忘れた場合利用客はいくら支払うべき?
A.押し忘れていたとしても距離分の金額を支払う必要があるのが原則です。
「タクシー運転手がメーターを押し忘れていた場合であっても、客は、メーターに表示される金額以上の料金を支払う義務があるものと考えられます。タクシーに乗る際には、乗客と運転手(タクシー会社)との間で「旅客運送契約」が締結されることになります。
これは、運転手は客を目的地まで送迎する義務を負い、客はその送迎に応じた代金を支払う義務を負うという契約を締結するという内容の契約です。
この「送迎に応じた代金」とは、「乗った距離や時間に応じて加算されていく料金」のことです。メーターの表示は、その料金を表示しているに過ぎません。
乗客と運転手の間の合理的意思としては、あくまで運送してもらった距離に応じて発生した料金を支払うものであって、メーターに表示がなくとも、実際に乗った距離分の料金は発生するということになるのが原則です。
なお、この点に関し、国交省が定めている「一般乗用旅客自動車運送事業標準運送約款」の5条1項には、「・・・運賃及び料金は、・・・運賃料金メーター器の表示額によります」と定められています。
この約款は法律ではないため、もちろんタクシー会社によっては異なる定めがある可能性がありますが、大多数のタクシー会社はこれを採用しているものと考えられますので、この規定によれば、タクシー料金はメーターの表示に従えば良いということになりそうです。
ただし、この約款は、あくまでタクシー発進時にメーターが押されていることを前提としているものと思われますし、明らかに押し忘れている場合にも100%適用があるかと言われれば解釈の余地は残ると思います。
実際上争いになったような場合には、同約款の適用範囲が問題になると思いますが、両当事者の合意からすれば、押し忘れの際には適用がないとして、やはり実際に乗った分の代金が認められることになるのではないでしょうか。
とはいえ、この場合、タクシー運転手にも過失があるため、過失相殺(民法722条2項)がなされる可能性も出てくるかもしれません」(大達弁護士)
どうやらメーターを押し忘れていたとしても原則的には走った分の料金を支払わなければいけないようです。あとは、タクシー会社によっては独自の規約を持っていることがあり、その場合は例外も発生するのですね。
*取材協力弁護士: 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)
*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)
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*icemic / PIXTA(ピクスタ)
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