今月中旬から今月25日の間に覚せい剤を使用した容疑で11月28日に逮捕されたASKA容疑者ですが、報道陣に対して「不法侵入ですよ!」と声をだしていたようです。マスコミは警察の制止を無視してガレージ内に侵入したほか、ベンツのエンブレムを折るなどしたようです。
今回のマスコミの取材に対して、インターネット上では「不法侵入では?」「器物損壊でしょ」といった声が上がっているようです。そこで、このような行為が実際に上記の罪に該当するのか、解説していきたいと思います。
■住居侵入罪、器物損壊罪が成立する可能性は高い
まず、冒頭で書いたことが真実だと仮定してお話しを進めたいと思います。
先に挙げたような、ガレージ内に侵入したり、ベンツのエンブレムを折ったりといった行為をしていた場合は違法なことと言えます。
ガレージへの侵入については、インターネットでも声が上がっている通り、不法侵入(正確には住居侵入罪:刑法第130条前段)が成立します。住居侵入罪は、その住居の管理者の意思に反する侵入を罰する罪ですので、本件の場合、マスコミのガレージ内への立ち入りがASKAさんの意思に反するのであれば、同罪が成立するといえます。
次に、器物損壊罪(刑法261条)についてですが、この罪は他人の物を壊した場合に成立する罪ですので、ベンツのエンブレムを折った場合には成立する余地は十分にあります。罪自体が成立しないという可能性があるとすれば、エンブレムを折ったことが故意ではないという場合でしょうか。
原則として、犯罪は故意犯のみを罰し、過失は罰しないということになっています。要するに、故意とは「わざとやった」ということです。当時のマスコミの状況は具体的にわかりませんが、人が大挙押し寄せ、揉みくちゃになりながら、圧力に耐えられず不可抗力で体の一部がエンブレムに当たって折れてしまったというような場合、故意の認定が少し難しくなる余地はあろうかと思われます。
当然、住居侵入罪の成立にも故意の要件は必須ですが、「ガレージに入るつもりはなかったけど間違えて入ってしまった」という弁解は通る可能性が低いと思います。なお、器物損壊罪は親告罪といって、被害者つまりベンツの所有者(具体的には車検証の名義人)の告訴が無ければ罰せられることはありません。
■マスコミの行動について思うこと
こういった注目事件の際のマスコミの他者の迷惑を顧みない行動は目に余ると個人的には考えております。
僕のよく知っている弁護士も、とある有名事件を担当された際、裁判所から車で帰るに際し記者に追いかけられ、車(BMW)に無数の傷が付いていたことがありました。身近な人がそういう被害に遭ったということを聞き、非常に驚きました。
また、自分としても、ある事件を担当した際に、事務所にアポも無しに次々と記者が来て、一方的に「話を聞かせてくれ」と言われ、断ってもなかなか帰ってもらえず困惑したことがあります。向こうも仕事だということは分からなくはないのですが、僕の業務や事務所のほかの人たちへの迷惑を顧みない態度は異様に見えました。
価値観が違うと言ってしまえばそれまでですが、大袈裟に言えばちょっと洗脳されているような、そういう怖さを感じる一面を垣間見ました。もし、「犯罪者(容疑者)なのだからこれくらいされても仕方ない」というような意識があるのであれば、それは絶対に間違っていると思います。
どういう価値観を持つかは勝手かもしれませんが、社会生活を営む上で必要な最低限のマナーやルールは守っていただきたいと思います。
*著者:弁護士 河野晃 (水田法律事務所。兵庫県姫路市にて活動をしており、弁護士生活6年目を迎える。敷居が低く気軽に相談できる弁護士を目指している。)
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