ソフトバンク株式会社が提供する『かざして募金』というサービスに関し、インターネット上では、同社ユーザーから「寄付した覚えがないのに知らない間に寄付していた。」などとの不満の声が上がっていたようです。
ユーザーからは、『かざして募金』のスクリーンショット画像とともに、
①指紋や暗証番号による認証なく募金できてしまうこと
②誤タップを招くUIの上、2~3タップで募金できてしまい、しかもキャンセルができないこと
③デフォルトで「毎月寄付する」のチェックボックスにチェックが入っており、気づかなければ毎月継続して募金(課金)されてしまうこと
の3点が問題として提起されていました。
さて、上記①から③は法的に問題がないか、関連する法律とともに以下解説したいと思います。
■特定商取引法による規制対象となるか
特定商取引法の適用対象となる契約は売買契約(権利販売契約)及び役務提供契約です。
法律上、募金は、贈与契約、委任契約、信託契約のいずれかに該当し、特定商取引法による規制対象となる契約ではないため、上記①から③は特定商取引法上の規制対象ではありません。
■電子消費者契約法による規制対象となるか
電子消費者契約法にいう「電子消費者契約」とは、「消費者と事業者との間で電磁的方法により電子計算機の映像面を介して締結される契約であって、事業者又はその委託を受けた者が当該映像面に表示する手続に従って消費者がその使用する電子計算機を用いて送信することによってその申込み又はその承諾の意思表示を行うもの」です。
…つまり、ユーザーとソフトバンク株式会社または募金先とのインターネット上の契約は「電子消費者契約」に当たります。
そして、募金するつもりがないのに誤タップにより募金をしてしまった場合は、ユーザーがちょっと注意すれば当該キーをタップすることにより募金の申込みをしてしまうことに気づけたときであっても、原則として、誤タップによる募金は無効になります(電子消費者契約法3条本文、同条1号、民法95条ただし書)。
ここで「原則として」と言ったのは、電子消費者契約法3条ただし書において、画面上に消費者からの申込み若しくは承諾の意思確認を求める措置を講じた場合には、事業者のほうで、消費者がちょっと注意すれば当該キーをタップすることにより募金の申込みをすることに気づけたはずだと立証することにより、募金は有効として扱われるからです。
今回問題になっているアップロードされたスクリーンショットの画像を見ると、画面上には、「規約に同意して毎月継続して○○円寄付します。」との表示があり、当該画面で「はい」のキーをタップすると募金が完了するようになっています。
そうすると、電子消費者契約法3条ただし書が適用され、ソフトバンク株式会社が任意に返金等の措置を講じない場合には、ユーザーにおいて誤タップによる募金の無効を主張して返金等を求めることはできない可能性が高いでしょう。
したがって、上記①から③のUIや仕様には問題があるとしても、実際に電子消費者契約法に基づいて返金を求めることはかなり難しいという結論になります。
(通常であれば、返金を求めることは難しいですが、今回の件は「返金は出来ないが、翌月の電話料金から割引する」という形で落ち着いたようです。)
■現行法上は問題がないとしても
ヨーロッパでは、ユーザーに誤操作をさせ、ユーザーを騙すことを目的とするUIである「ダークパターン」の一部が違法とされています。
日本の現行法では「ダークパターン」を直接規制する法律はありませんが、少なくとも上記の③はヨーロッパでは違法な「ダークパターン」の1つである「Forced Continuity(強制的な継続)」に当たります。
今後の法改正によって消費者と事業者間の契約に関して事業者側に消費者の誤解を招かないようなUIとすることが義務付けられるかもしれませんが、それまでの間は、面倒でもスマートフォンを利用する際には画面が遷移するごとに画面上の表示を確かめる必要があるでしょうね。
*著者:弁護士 木川雅博 (星野法律事務所。通信会社法務・安全衛生部門勤務を経て、星野法律事務所に所属。破産・再生・債務整理を得意とする。趣味は料理、ランニング。)
【画像】
* freeangle / PIXTA(ピクスタ)
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