自分の死後、妻や子ではなく、愛人に対して自分の財産を全部譲りたいと考え、そのような内容の遺言を書いた場合、果たして有効でしょうか?
愛人との不倫関係を維持するための愛人契約は、公序良俗(民法90条)に反して無効とされていますので、同様に、愛人への遺贈も公序良俗に反して無効とならないかが問題となります。
●判例では「有効」となったことも
この点、判例では、(1)不倫関係の維持継続を目的とせず、(2)もっぱら生計を遺言者に頼っていた愛人の生活を維持するための遺贈であり、かつ、(3)遺言の内容が相続人(妻や子)の生活の基盤を脅かすものではない場合には、公序良俗に違反せず、有効となるとされています(最高裁昭和61年11月20日判決)。
上記判例の基準に従えば、愛人に対する全財産の遺贈は、たとえ不倫関係の維持継続を目的とするものではなく、もっぱら生計を遺言者に頼っていた愛人の生活を維持するためのものであっても、それによって相続人の生活の基盤を脅かすことになる場合には、公序良俗に違反して無効になるということになります。
●無効になった例ももちろんある
裁判例でも、妻ある男性が同棲関係にある女性に対して、それまでの協力や今後世話になることに対する感謝の気持ちから全財産を遺贈した場合であっても、遺言の内容が妻の生活の基盤を脅かすなどの事情があるときには、当該遺贈は公序良俗に違反して無効になると判断されています(東京地裁昭和63年11月14日判決)。
このように愛人に対して財産を遺贈するという場合には、上記のような高いハードルがあることを認識しておいたほうがよいでしょう。
*著者:弁護士 理崎智英(高島総合法律事務所。離婚、男女問題、遺産相続、借金問題(破産、民事再生等)を多数取り扱っている。)