中国のとある大富豪が、日本人のAV女優と15年間で約10億円の専属契約を結んだというニュースが話題です。
ネット上では様々な意見が飛び交っていますが、中には「愛人契約なのでは?」という素朴な意見も見られます。どのような内容の契約なのかは詳しく報じられていないようですが、少し気になる話です。
それはさておき、本日は専属契約ではなく、愛人契約に関する法律の話について書きたいと思います。
●そもそも愛人契約って何?
そもそも愛人契約とは、法律に規定があるわけではありませんが、「既婚者が配偶者以外の者と金銭等のやり取りを通じて性的関係などを結ぶ約束をすること」とご理解ください。
典型的な例としてイメージされやすいのは、お金持ちの既婚男性が奥さん以外の女性との間で愛人契約をする場合だと思いますが、男女が逆でも同じことです。
(良く考えると、必ずしもどちらか一方が既婚者である必然性はないとも思えるのですが、ここでは便宜上、このように整理させていただきます。)
●愛人契約は法律で認められない
結論から言うと、こういった性的な関係を前提に金銭その他の対価を支払うことを約束する愛人契約は、公序良俗に反するという理由で法律上は無効となります。
公序良俗とは聞きなれない言葉だと思いますが、「社会一般的な道徳観念」であるとか、あるいはもっとくだけた表現をすると「社会的な妥当性」とご理解いただければ良いと思います。
●愛人と不倫はどう違う?
ここまで書いて自分でも少し疑問に思ったことを書いてみることにします。
「愛人」と「不倫」の違いって何なのでしょうか。先ほど整理させていただいた内容からすると、「愛人」の場合は定まった対価が発生するのに対して、「不倫」の場合は必ずしもそうではないといえそうです。
あと、単なるイメージかも知れませんが、「不倫」関係というと、双方に一定程度の人的な信頼関係、情的な関係がありそうですが、「愛人」関係というとそれよりも事務的な印象があるように思います。気持ちよりもお金のためにという感じでしょうか。
●愛人契約が売春にならない理由
また「愛人」は、「お金をもらって性的な関係を持つ」という意味で「売春」と類似点があります。この点は、「愛人」の場合、約束をした特定の相手とのみ性的な行為を行うものですが、「売春」は、不特定の相手と性的な行為を行うという相違点があります。
●愛人契約の特殊な話
最後に、『男性と「愛人契約」を締結した女性が、お金をもらったにもかかわらず性的な行為を拒否した場合、男性は女性に対して返金を求められるか』という問題についてお話しします。
答えは、「NO」です。何とも理不尽なように思えるかもしれませんが、女性はお金を返す必要はありません。
「愛人契約」という公序良俗に反して無効な契約に基づく給付については、「不法原因給付」といって返還を請求することが出来ないと民法は定めているのです。
*著者:弁護士 河野晃 (水田法律相談所。兵庫県姫路市にて活動しております。弁護士生活5年目を迎えた若手(のつもり)弁護士です。弁護士というと敷居が高いと思われがちな職種ですが、お気軽にご相談していただけるような存在になりたいと思っています)