愛媛県の小学校2年生の女の子を連れ去ったという未成年者略取の疑いで犯人が逮捕されました。
ここまでなら、たまにニュースで見聞きするような報道ですが、なんと、その犯人は連れ去られた女の子のおじさんでした……。
しかも、以前よりおじと姪はよく遊んでいたようです。ではなぜ遊んでいただけで逮捕されてしまったのでしょうか?こんなことが実際にあるの!?そんな疑問を解説いたします。
●「略取」と「誘拐」の違い
未成年者略取(誘拐)罪とは、未成年者をその生活環境から離脱させて、犯人もしくは第三者の事実的支配下に移すことにより成立します。
ちなみに、「略取」とは、犯行の手段として暴行や脅迫を用いる場合であり、「誘拐」とは欺罔や誘惑を用いる場合です。強引に連れて行った場合を「略取」、「お母さんが待ってるから」、とか「お菓子あげるよ」などと言って連れ去る場合を「誘拐」と考えていただければ結構です。冒頭のニュースでは「略取」の方でしたので、強引に連れ去ったという容疑がかかっているということになります。
●なぜ犯罪になった?
この未成年者略取罪により、法律が守ろうとしている利益は、第一には「未成年者の自由」ですが、未成年者は父母等の保護監督のもとに生活していることが通常ですから、そういった保護監督者の保護監督権といった権利も守られていると考えられています。「保護監督権」とは、「親が子どもを守れる範囲にとどめさせる権利」と考えていただければ結構です。
以上のような利益が、この未成年者略取罪により守られていますので、いくら親戚とはいえ、おじが姪の親に何も告げずに姪を連れ去った場合には、犯罪が成立する余地は十分にあります。
冒頭のケースの場合、女の子はまだ8歳ということで、おじについて行くという判断において、十分な判断能力が有りませんので、仮に女の子自身が形式的におじについて行くという判断をしたとしても、罪は免れられないと考えます。
女の子の親が、おじが遠いところに連れて行くことにおいて、黙示的にも同意していなければ、女の子の利益のみならず、親の利益も侵害していることになります。
●実の親でも犯罪になったケースも
今回の事件は、おじという未成年者の保護監督権を持たない者の犯行でしたが、最高裁判所は実の親であっても、この未成年者略取罪の成立を認めています。
具体的には、別居中の妻の監護下に居た2歳の子どもを父親が強引に連れ去ったケースで、子どもの監護養育上連れ去ることが特に必要と認められない限りは未成年者略取罪が成立するとしています。「未成年者略取罪という犯罪が何を守ろうとしているか」ということを考えれば、この結論も至極当然だと思います。
(こんな容貌をしていますが…)僕も子どもが大好きですので、友達や親戚の子どもと遊ぶのを本当に楽しみにしています。
ただ、今回のように、よからぬ容疑をかけられないためにも、毎回きちんと親御さんの了解を得ようと思います。皆様もお気をつけください。
*著者:弁護士 河野晃 (水田法律相談所。兵庫県姫路市にて活動しております。弁護士生活5年目を迎えた若手(のつもり)弁護士です。弁護士というと敷居が高いと思われがちな職種ですが、お気軽にご相談していただけるような存在になりたいと思っています)