交通事故で人をはねてしまった、しかも相手は女性で顔に傷がついてしまった。更に相手はホステスだった……。
このような事態を起こしてしまった場合、例えば、相手は男性で顔に怪我はなく、会社員だったという場合よりも賠償額は高くなると思いますか?
ホステスさんにとっては容姿というのは職業上非常に重要な要素を占めるのは言うまでもないですよね。とは言っても、果たしてホステスというだけで賠償額が高くなるものなのでしょうか。
結論から言うと、賠償額は高くなります。それでは、なぜ高くなるのでしょうか?
●賠償額を決める基準に「職業」がある
これは、交通事故の損害賠償の基準から、このような結論になることが考えられるのです。
交通事故で顔に傷跡が残った場合には、そのことで賠償(正確には逸失利益)が認められます。この賠償額には一応の基準はありますが、具体的な賠償額の算定にあたっては、性別、年齢、職業等を考慮して決められます。
過去の事例ですと、接客業の20代女性につき、顔に大きな傷がついたということで、収入の30%の損害を42年分認めたという裁判例があります。また、女子大生につき、顔に大きな障害が残ったということで、約80%の損害を43年分認めたという裁判例もあります。
このように、接客業やこれから就職しようとする人については顔に傷を負うことが非常に大きな制約、不利益が生じると判断され、比較的高額な賠償が認められるケースが多いようです。職業以外にも、女性の年齢、未婚か既婚か等の要因も賠償額に影響すると思われます。
●目立たない部分だったら?
逆に顔のように目立つ部分ではなく、それほど目立たない部分、服を着れば見えなくなる部分であると、例えば腕が曲がらない等の具体的な行動の制約がない場合は、それほど高額な賠償が認められるケースは少ないように思われます。
ただ、このような判断傾向は女性に限ったことではなく、現在では男性であっても女性に近い額の賠償を認めようという動きがあります。ですので、将来的には男性,女性というだけで賠償額に差がつくことは、今後は少なくなってくるでしょう。
以上は交通事故の際の基準ですが、交通事故でなく傷害事件であってもこの基準は適用されると思ってよいでしょう。ですので、接客業などの人の顔を傷つけると、高額な賠償責任を負うものと考えておいてください。
もちろん、顔でなくても、他人を傷つけることはそれだけで傷害罪という犯罪ですので、決してやっていいことではありません。いずれにせよ、他人を傷つけると大きなペナルティーが待っているということだけは肝に銘じておきましょう。
*著者:弁護士 山口政貴(神楽坂中央法律事務所。サラリーマン経験後、弁護士に。借金問題や消費者被害等、社会的弱者や消費者側の事件のエキスパート。)