「どうして解散するんですか?」 小学生になりすまして政党批判に違法性は?

「小学4年生の中村」を名乗るが今回の衆院解散に対して、「どうして解散するんですか?」という疑問を問いかけるサイトを公開したところ、大反響がありましたが、後になって大学生が小学四年生になりすまして作ったことが判明しました。

これに対して安倍首相本人が自信のFacebook上のページで「批判されにくい子供になりすます最も卑劣な行為だと思います」とコメントし、ネットユーザーの間でも「卑怯である」といった声があがるなど炎上しました。

なりすましの道義的な是非はさておき、このように人格を偽ってなりすましをし、政治的な意見を述べることに法的な問題はないのでしょうか?

今回は、星野法律事務所の星野宏明先生に話を聞いてみました。

スクショ

■架空の人格になりすまして政党を批判することに違法性は?

「基本的には刑法上の犯罪になりません。政治的意見の表明は、民主主義の根底を支える仕組みであるため、憲法で厚く保障されている表現の自由のなかでも特に重要なものであり、広く自由に認められます。」

まず、私人への嫌がらせ等ならばともかく、政治的な批判は憲法上広く許されるという前提を確認しましょう。

「匿名での批判も政治的表現の自由に含まれますので、同じです。」

我々の素朴な価値判断からすれば、「なりすまし」というと悪いイメージがありますが、要は匿名と同じように考えているようです。「なりすまし」は悪いことだから処罰すべきというようなことはないわけです。

「例外は、なしすまし自体よりも、批判の表現が他者に対する名誉棄損・侮辱罪となる場合です。もっとも、名誉棄損も、選挙の候補者に関する批判表現は、真実であること、または真実であると信じるにつき相当であったことを証明すれば、違法性が阻却されます。このように、政党・政治批判は、広く許容されています。」

 

■公職選挙法上のなりすまし禁止にもあたらない

「選挙期間中に行われる『選挙運動』として、なりすましを行った場合には、公職選挙法違反となります。もっとも、インターネットを利用したなりすましが禁止されるのは、公職選挙法でいう『選挙運動』だけです。ここでは簡単にいうと、特定の候補者の投票と関連しない単なる政治批判・批判は、公職選挙法の『選挙運動』に該当せず規制対象になりません。」

「今回のなりすましは、選挙費用の無駄を批判する内容ですので、「選挙運動」には該当せず、公職選挙法のなりすまし禁止規定には抵触しない可能性が高いと考えられます。」

「ちなみに、そもそも、選挙運動は選挙期間中(選挙の公示・告示日から選挙期日の前日)しか行えませんので、選挙運動に該当するような意見表明(投票呼びかけ)は、告示前である本原稿執筆時点(11月26日)では、なりすましでなくとも公職選挙法違反となる可能性があります。」

なりすましをしたということにスポットがあたりがちですが、それだけではなく内容としてどんなことを呼びかけたかということも重要なようです。

今回の炎上事件で呼びかけていたことは、主に選挙にかかる費用が多大であることでした。これ自体は特に刑法で禁止されるような内容ではなく、公職選挙法で禁止されている「選挙運動」にもあたらないということです。

今回のなりすましをしての政治的批判が、刑事罰を下すにあたるような行為とはなかなか言えないことが確認できました。では、視点を変えて、なりすましによって精神的苦痛を受けたとして慰謝料の請求はできないのでしょうか?

 

■なりすましを信じていた者が、だまされたことに気付いたことを理由に慰謝料の請求はできる?

「何らかのショックを受けて実際に精神的苦痛を被っていたとしても、立証はまず不可能でしょう。」

不法行為に基づく損害賠償請求をする際には、自分の被った権利・利益の侵害を請求する側が立証しなければなりません。だまされていたことで受けたショックを実際に法廷で証拠を用いて立証することは素人の想像でも困難であることがわかるでしょう。

「なりすましであっても、憲法で保障されている政治的表現の自由に含まれる批判と精神的苦痛との間には、因果関係も肯定できません。したがって、慰謝料の請求はできないでしょう。」

以上の通り星野先生がコメントしてくれたように、今回の件で法的な問題になることはなさそうです。

なりすましをしてまで批判をすることの是非はさておき、今回は憲法で保障されている政治的表現の自由が複数回出てきました。政治的な批判を取り締まって意見封じるよりも、さまざまな意見をある程度野放しにすることによって多様性が生まれ、議論が活発化するのではということが、表現の自由の保障根拠の一つとして言われております。
なりすまし事件では炎上までし、さまざまな意見が噴出しましたが、このように活発な議論の生まれている状況は、この意味では健全といえるのかもしれません。

*取材協力弁護士:弁護士 <a href=’https://lmedia.jp/author/hoshino/’>星野宏明</a>(星野法律事務所。不貞による慰謝料請求、外国人の離婚事件、国際案件、中国法務、中小企業の法律相談、ペット訴訟等が専門。)

画像:「どうして解散するんですか?」のスクリーンショット

星野宏明
星野 宏明 ほしのひろあき

星野・長塚・木川法律事務所

東京都港区西新橋1‐21‐8 弁護士ビル303

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