みなさん、「ブライダルチェック」という言葉をご存知でしょうか。
最近まで僕も知らなかったのですが、一般的には、結婚を控えている女性を対象にした婦人科検診のことを指すそうです。
最近、婚約中の女性が、ブライダルチェックをするケースが増えているみたいです。
それでは、ブライダルチェックの結果、肝炎やHIV等に感染していたり、子宮がんや卵巣腫瘍など妊娠や出産に影響を与える病気にかかっていることが判明した場合、男性の側から一方的に婚約を解消することはできるのでしょうか。
今回は、そもそも婚約とは何か、婚約を解消することができるのはどのような場合か、女性がHIVや子宮がん等の病気にかかっている場合に婚約を解消することができるのかについてご説明したいと思います。
●婚約とは?
婚約とは、婚姻予約のことであり、将来において適法な婚姻をすることを目的とする男女間の契約です(大審院連合部大正4年2月26日判決)。
そして、婚約を不当に破棄した場合には、慰謝料の支払義務を負うとするのが判例です(最高裁昭和38年9月5日判決)。
●適法に婚約を解消することができるのはどのような場合?
上記のとおり、婚約とは契約ですから、婚姻の目的を達成できないような重大な事由(帰責性)があれば、一方的に解消することができます。
たとえば、経歴や結婚歴の詐称、多額の借金、婚約後の不貞やDVは、婚姻の目的を達成することができない重大な事由に該当しますので、そのような事由があれば、婚約を一方的に解消することができます。
逆に、他に好きな人ができたとか、やっぱり性格が合わないといった身勝手な理由では、婚約を一方的に解消することはできません。
なお、婚約の解消が適法であれば、慰謝料の支払義務を負うこともありません。
●女性がHIVや子宮がん等の病気にかかっていることを理由に、婚約を適法に解消することができる?
まず、性交渉は夫婦生活において重要な要因であるところ、HIVに感染している女性と性交渉をすれば、男性もHIVに感染する可能性が高く、また、二人の間の子どももHIVに感染して生まれてくる可能性がありますので、そのようなリスクを冒してまで結婚しろと法律は男性に要求することはできません。
そのため、女性がHIVに感染していることは、婚姻の目的を達成することができない重大な事由に該当しますので、男性から一方的に婚約を解消することができると考えます。
次に、子どもを設けることも夫婦生活において重要な要因であるところ、女性が子宮がんや卵巣腫瘍の病気にかかっていると、妊娠や出産をすることができず、子どもを設けることができない可能性がありますので、やはり、婚姻の目的を達成することができない重大な事由に該当し、男性の側から一方的に婚約を解消することができると考えます。
●男性が病気である場合にも、女性から一方的に婚約を解消することができる
結婚前の男性も、ブライダルチェックを受けるケースが増えていると聞きます。
上記で説明したことは、男性が病気にかかっていた場合も同様です。
すなわち、ブライダルチェックの結果、男性がHIVに感染していたり、性的不能であって子どもを作ることができないことが判明した場合には、上記で説明した理由により、女性からも一方的に婚約を解消することができるということになります。
*著者:弁護士 理崎智英(高島総合法律事務所。離婚、男女問題、遺産相続、借金問題(破産、民事再生等)を多数取り扱っている。)