男性が女性を壁際に追い詰め「ドン」と壁に手をついて甘い言葉をかけたり告白をする「壁ドン」――
少女漫画等を通じて女性が憧れるシチュエーションとして話題となっています。最近では「壁ドンカフェ」や小田急百貨店が2015年の福袋に「壁ドンセット」なるものも発売することが明らかになり、人気が衰えることはなさそうです。
しかし、状況を間違えると、女性にとってはただの怖いシチュエーションになることも考えられます。男性がよかれと思って行った「壁ドン」が悲しくも犯罪となってしまうことはあるのでしょうか?
■「壁ドン」が該当しうる具体的な犯罪
まず、「壁ドン」が暴行罪(刑法208条)に該当することが考えられます。
「暴行」とは、「他人の身体に対する物理力の行使」をいいます。判例上、殴る、蹴る等の身体的接触を伴う行為にとどまらず、驚かす目的で被害者の数歩手前を狙って投石する行為や、嫌がらせのために併走中の自動車に幅寄せする行為も「暴行」と認定されています。同様に「壁ドン」も、たとえ直接女性の身体に触れていなくても、「暴行」に該当する可能性はあるでしょう。
次に、「壁ドン」が脅迫罪(刑法222条1項)に該当することも考えられます。
「脅迫」とは、「人を畏怖させてしまうような害悪の告知」をいいます。「告知」とは、言葉に限られず、態度も含まれるため、「壁ドン」の態様により女性が身の危険等を感じ畏怖してしまうならば「脅迫」に該当します。また、一般的に「壁ドン」には口説き文句が伴うと考えられますが、「壁ドン」をしながら「もっと強引なことをする」「俺と付き合ってくれないと…する」等囁くと、「脅迫」に該当する可能性は増すでしょう。
さらに、少女漫画のように、「壁ドン」をしながら少女にキスをしてしまうと、「被害者の性的羞恥心を害する行為」として強制わいせつ罪(刑法176条)に該当する可能性もあるでしょう。
■職場での「壁ドン」はセクハラ?
職場の給湯室での「壁ドン」は、少女漫画やドラマでは定番の憧れのシチュエーションとして取り上げられることがあります。「壁ドン」により刑法上の罪に問われなかったとしても、職場での「壁ドン」がセクハラとして会社からの懲戒の対象となる可能性はあるでしょう。
「壁ドン」が該当しうるのは、「性的な言動が行われることで職場の環境が不快なものとなったため、労働者の能力の発揮に悪影響が生じる」といういわゆる「環境型」のセクハラであると考えられます。セクハラに該当するか否かは、性的な言動が「一般的に相手の意に反していて不快に感じると言えるかどうか」が重要な指標となっています。また、セクハラの態様としては、身体的接触等直接的な行動を伴うものだけではなく、性的な冗談やデートへの執拗な誘い等の性的な内容の発言も含まれます。
一般的に、「壁ドン」は、男性が女性を口説く場面で行われる行為ですから、性的な言動と言えることが多いと考えられます。女性が「壁ドン」を会社にセクハラとして申告し、会社が「壁ドン」をセクハラと認定すれば、懲戒の対象となったり業績評価に悪影響を及ぼしたりする可能性があります。
■相手がどう思うのかを考える必要がある
以上のように、流行の「壁ドン」も、相手方の同意がなければ、犯罪やセクハラに該当する可能性があります。「壁ドン」をする際には、相手方が自分に好意を抱いているのかをしっかり考えた上で行うべきでしょう。
*著者:弁護士 鈴木翔太(弁護士法人 鈴木総合法律事務所)