日本人の民間軍事会社を経営する男性が、イスラム過激派組織に拘束されたと報じられました。
その際、男性は「自分はカメラマン」などと身分を隠しましたが、日本人の男性がツイッターにて犯人グループと思われる人に「民間軍事会社の人」と情報提供を行いました。情報提供を行った男性に対して批判の声が多く上がっているようです。
その後、拘束された日本人男性が殺害されたという不確定情報もあり、混乱している模様です。
仮の話ですが、この情報提供がきっかけ、又は要因の一つとなり殺害されるようなことがあれば、情報提供をした男性が罪に問われるのかを検討してみます。
■刑法の適用
そもそも、殺害行為があったとしたら、シリアで行われており、殺人罪を処罰する日本の刑法の適用があるのかが問題となりますが、殺人罪は国外犯規定があり、今回問題となる教唆・幇助行為が日本で行われている場合には、教唆・幇助の国内犯として扱われるため、刑法が問題なく適用されます。
■教唆犯となる可能性
教唆犯とは、共犯の一つで、正犯(殺害行為を実行した者)を唆して犯罪行為を実行させる犯罪です。
全く犯罪を行う意思がない人を唆すことはもちろん、実行を迷っている人を唆して最後の決断をさせることも教唆犯となります。
そうすると、今回の行為は、教唆犯となりそうですが、故意の有無が問題として残ります。
軍事会社の代表であるとの情報提供をしたときに、殺害を唆そうとまで思っていたとは考え難く、故意がないために教唆犯は成立しないと考えられます。
なお,過失による教唆犯は成立しないと解釈するのが多数説です。
■幇助犯となる可能性
幇助犯も共犯の一つで、正犯行為を心理的または物理的に容易にする行為です。
例えば、殺害を決意している人に対し、拳銃等の武器を提供したり、見張りをしたりする行為です。
今回、情報提供がきっかけで、殺害が行われたとしても、情報提供は殺害行為自体を容易にしたわけではないので(情報提供があってもなくても殺害行為の容易性は変わりません。)、幇助犯の成立も難しいでしょう。
■過失致死となる可能性
過失致死罪が成立しないとは断言できませんが、
(1)すでに被害者が拘束されていて、いつ殺害されるかわからない危険な状況にあったこと
(2)拘束された男性は会社のサイトなどで「民間軍事会社代表」ということを明かしており情報提供がなくても分かる情報だったこと
(3)他人の殺害行為という故意が介在していること
を考えると、仮に過失があったとしても死亡結果と因果関係がないと判断される可能性が高いように思います。
したがって、過失致死罪も成立しないでしょう。
以上みてきたように、本件を処罰するには刑法理論的にはいろいろ難しい問題があり、法学部の授業でも取り上げられそうな事例です。
拘束された男性が無事であることを願います。
*著者:弁護士 星野宏明(星野法律事務所。不貞による慰謝料請求、外国人の離婚事件、国際案件、中国法務、中小企業の法律相談、ペット訴訟等が専門。)