買い物に行って、代金が3,000円だったとします。
その代金を支払うとき、100玉30枚で支払うことが出来るでしょうか。店主が100円玉30枚でも受け取れば問題はありませんが、仮に嫌がらせで1円玉3,000枚を出したとしても、店主は受け取る義務があるのでしょうか。
この問題には、法律があります。
硬貨の場合は「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律第7条」によって、同じ硬貨は20枚まで強制通用力を有していると定められています。
つまり、同じ硬貨を20枚以上使って支払うことは出来ない(強制通用力がないということになります)が、20枚までなら強制通用力があるので、代金の支払いとして有効になります。20枚を超えても、受け取る側が納得していれば、問題はありません。
ちなみに、紙幣(正確には日本銀行券)だと上記のような制限はありません。「日本銀行法第46条第2項」によって、枚数の制限がなく、強制通用力をもっています。100万円の支払いの際に1,000円札1,000枚で支払っても強制通用力がありますので、受取を拒否できません。
紙幣と硬貨にこのような差を設けているのは、紙幣が主たる貨幣であり、硬貨はそれを補助する貨幣だからだと言われています。
強制通用力とは、このように債務の支払いとして有効になるということです。
債務の支払いとして有効だということは、どういうことでしょうか。代表的な債務は代金ですので、代金で説明します。
3,000円の代金を100円硬貨30枚で支払っても、受取を拒否されたら、強制通用力がないので債務の支払いが有効になりません。債務の支払いが有効にならないと、遅延損害金が発生したりして債務者が不利益を被ります。
1,000円札3枚で支払えば、強制通用力があり債務の支払いが有効になりますから、受取を拒否されても、債務者はなんら不利益を被りません。難しい言葉ですが、本旨弁済となる、などと表現されます。
今は、キャッシュレスの時代ですので、あまり問題になることはないですが、豆知識として覚えておくと良いでしょう。
*著者:弁護士 星正秀(星法律事務所。離婚、相続などの家事事件や不動産、貸金などの一般的な民事事件を中心に、刑事事件や会社の顧問などもこなす。)