「意見」と「クレーム」の難しい境目 モンスターペアレンツを教師が訴えることはできる?

少し前の情報番組でモンスターペアレントの特集をやっていましたが、そこでは、「入学式に桜が咲いていない」「子供に掃除当番をさせないで業者を雇え」「保育園で仲のいい子と離れるのは困るので一緒にしてほしい」などと、言いがかりとしか思えないようなクレームが保護者から学校の方に寄せられているとのことでした。

既に世間ではモンスターペアレントという言葉は定着していると思われますが、このようなモンスターペアレントに対し学校側は我慢しているだけではなく、法的手段をもって対抗することはできるのでしょうか。

家族

■暴力ではなく「理不尽なクレーム」はどうなる

もちろん、保護者が教師等に対して暴力をふるうようなことがあれば、これは抗議ではなく犯罪ですので、当然刑事事件となり、保護者は逮捕される可能性があります。事実、過去に教師に対して暴力をふるった保護者が逮捕されたというケースもあるとのことです。

問題は、このような直接的な暴力行為はないものの、理不尽なクレームを繰り返しているような場合です。このような場合でも教師は保護者を相手に訴えることはできるのでしょうか。

実は平成19年に埼玉県内の小学校で、実際に教師が生徒の親を相手に慰謝料500万円の支払いを求めて提訴したという事件が起こっています。この事件は、教師が保護者からいわれのない誹謗中傷をされ、これによって不眠症になったとして教師が保護者に対して慰謝料の支払いを求めたという事案です。結果は、教師側が敗訴となり、教師の請求は認められませんでした。

 

■クレームと意見の難しさ

親が教師に対して子供の教育につき学校側に意見を言うこと自体は決してクレームでもなんでもありません。学校はとかく閉鎖的になりがちですので、学校に対して色々と意見を言うこと自体はむしろ良いことだと思います。ですので、ただ単に保護者から学校に意見が出されたというだけでは当然のことながら違法ではありません。

また、保護者が仮に理不尽とも思われる意見,すなわちクレームを言ってきたとしても、それだけで直ちに違法となることはないと考えられます。

クレームか正当な意見かの判断は微妙であることも少なくなく、事後的に意見がクレームと判断されて違法となってしまうのであれば、保護者を極度に委縮させ、保護者は学校に対して何も言えない状況になってしまうからです。

 

■どうなれば教師側の請求が認められるのか

教師側の請求が認められるためには、そもそもクレームの内容や方法が著しく不当であること、クレームの回数や頻度が著しく多いこと、教師側がクレームに対してしっかりと説明しているにもかかわらず、クレームを繰り返すこと、等の諸条件をクリアする必要があります。このような条件がそろえば、教師が保護者を相手取り訴えて、慰謝料請求が認められる可能性は高くなります。

とはいうものの、教師と保護者が訴訟で争うという状況が教育上いいはずがありません。

教師と保護者が訴訟を続けている間にも、生徒はその学校に通い、その先生からいろいろなことを教わっていることもありうるのです。子供のことを最優先に考えるのであれば、保護者と教師,学校の間で納得いくまで話し合い、喧嘩腰で話し合うのではなくお互い妥協すべきところは妥協し、何とか合意できる道を模索するのが最善の方法ではないでしょうか。

 

*著者:弁護士 山口政貴(神楽坂中央法律事務所。サラリーマン経験後、弁護士に。借金問題や消費者被害等、社会的弱者や消費者側の事件のエキスパート。)

山口 政貴 やまぐちのりたか

神楽坂中央法律事務所

東京都新宿区津久戸町4-1 ASKビル2-B号室

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