先ごろ、インターネット上で、「外患誘致罪(刑法81条)という罪が重すぎる」と、ちょっとした話題となっておりました。
なぜかと言うと、外患誘致罪の法定刑は死刑のみであり、日本の刑法上、最も刑が重い犯罪だからです。
今回は、この外患誘致罪についてお話しすることにします。
■外患誘致罪の概要について
外患誘致罪は、「外国と通謀して日本国に対し武力を行使させた者」に適用されます。
「外国」とは、外国政府や、軍等の国家機関を意味します。そのため、外国の一個人や私的団体は含まれないと考えられています。ただし、日本国政府との国交のや国際法における国家の成立要件を備えることは要件とはならないとされており、北朝鮮など日本との国交を承認していない国も「外国」とみなされます。
また、「通謀して」とは、「意思を通じて」という意味です。
国家転覆を図る罪としては、他に内乱罪(77条)や、外患援助罪(82条)がありますが、いずれも死刑以外に無期懲役刑や有期懲役刑が選択される可能性が法律上あります。
外患誘致罪は、外国と組んでその軍事力が利用される点で内乱罪よりも国家の存立が危険にさらされる危険が高く、また、自ら外国の軍事力を利用しようとする点で事後的に加担する外患援助罪よりも主体的であり、そのためより悪質といえます。
そこで、最高刑の「死刑」のみが定められていると考えられます。
また、外患誘致罪については、未遂だけでなく(87条)、その準備行為である予備罪及び具体的な計画を行う陰謀罪も処罰され、1年以上10年以下の懲役刑が課されることとなっています(88条)。
さらに、国内でだけでなく、当然のことながら、国外で上記のような行為を行った場合にも適用され、日本国民のみならず、外国人にも適用されます(1条、2条3項)。
現在の刑法は、基本的には明治41年10月1日に施行されたものであり、外患誘致罪は、文言は修正されているものの、施行時から規定されています(日本の刑法は、平成7年に現代語に直されており、また、長い歴史の中で追加あるいは削除された罪名もあります)。
しかし、実際に、外患誘致罪によって訴追されたことは、現在に至るまで1度もありません。
一度、太平洋戦争開戦直前の昭和16年から17年に起きた日本人、ロシア人、ドイツ人らの諜報グループによる「ゾルゲ事件」について、外患誘致罪の適用が検討されたようですが、実際には、見送られ、当時の国防保安法や治安維持法等によって起訴されたことがあるだけです。
■もし「外患誘致罪」で訴追されたら
現代において、もし外患誘致罪で訴追が行われた場合には、裁判員裁判の対象事件となります。しかし、背景事情の判断にはかなり専門的な知識や理解が必要であると考えられ、また、公判が相当長期間に及ぶことも予想されます。
また、有罪となった場合には、死刑を言い渡さなければならないという問題もあります。裁判員の負担は非常に重くなることが予想され、外患誘致罪が適用される事件の裁判員にはなりたくないと思う人が大勢出てくるのではないかと懸念されます。
死刑執行はなぜ時間がかかる?その理由を弁護士に聞いてみると…
*著者:弁護士 寺林智栄(琥珀法律事務所。2007年弁護士登録。法テラスのスタッフ弁護士を経て、2013年4月より、琥珀法律事務所にて執務。)
*画像:くまちゃん / PIXTA(ピクスタ)