ある居酒屋で大学生の集団が無銭飲食をしたということを、アルバイト店員がTwitterで報告したところ、犯人が判明したという事件がありました。
しかし、運営会社は、店員が大学生のうちの一人のツイートやプロフィール、彼らの集合写真を公開したという事実を問題視しており、処分をする可能性もあると報じられています。
無銭飲食は犯罪行為ですが、そのような犯罪行為を許せないというのは正常な感覚です。それゆえ、「店員が処分をされるのはおかしい!」とも思えます。
今回、運営会社が店員の処分を検討しているのはなぜなのか、検討してみたいと思います。
●名誉棄損などは成立しないと思われる
報道によると、大学生らがTwitterで無銭飲食を自慢しつつ写真をアップしたもののようです。そのため、これらの情報は大学生らが自分から進んで公表したものといえます。
したがって、店員がこれを引用して報告したとしても、それが実際に店で無銭飲食をした者である以上、名誉棄損などと責められる理由はないと考えます。
※ただし、店に来たことがない全く別の人物を晒してしまったとなれば、名誉棄損の問題が生じてきます。
客の情報を晒すのは問題だという指摘も一部であるようですが、無銭飲食をしている時点で「客」とは呼べませんから、この点の問題はないと思います。
●晒し行為は「私刑」に当たる可能性がある
しかし、そもそも、日本において「私刑」が禁じられていおり、刑を課すには法律に基づいて行う必要があります。
私刑は法律に基かずに執行される私的な制裁です。何をもって「私刑」というかは議論があるかもしれませんが、無銭飲食をした者を晒すという行為も私刑に該当し得ます。
ちなみに、私刑を執行すると罪に当たるかですが、行為の内容によって罪に当たるかどうかが異なってきます。たとえば、殴ってしまえば暴行罪などになります。
本件では、元の情報を公開しているのは大学生らのようなので、そこまで違法性があるわけではないと言えそうですが、自分の店での無銭飲食と結び付けています。
先に述べたように、本件では罪には当たらないかもしれませんが、私刑の禁止という観点からは相当な行為ではないと言い得ます。
そのため、この観点からの処分ではないかと想像されます。
店員の気持ちはよく分かりますが、犯罪を見つけたら警察に通報して情報提供をすることを、まずは検討するべきかなと思います。
*著者:弁護士 清水陽平(法律事務所アルシエン。インターネット上でされる誹謗中傷への対策、炎上対策のほか、名誉・プライバシー関連訴訟などに対応。)