AKB48の握手会で、のこぎりを持った男が暴れ、メンバーやスタッフの計3人が切りつけられて骨折などのケガを負った事件が発生した事を受けて、握手会が当面中止になることが発表されました。
そこで気になるのが握手券の行方です。
握手券を目的に大量のCDを購入していた男性が事件の容疑者に対して損害賠償請求を行うことが明らかになりました。ニュースによると、損害賠償の内訳は、CD代金330枚34万6440円、精神的苦痛の慰謝料25万円、計59万6440円だそうです。
皆さんが裁判官だったらどんな判決を下しますか?
■認容の可能性はある
結論からいって、少なくともCD代金34万6440円程度は認容される可能性が十分あると思います。
なお、被告は逮捕されているようですが、民事裁判では被告が答弁書を提出するなどして反論せずに欠席すると、請求の当否にかかわらず、基本的に原告の訴えがそのまま認められて勝訴してしまいますので、以下では被告が争った場合を想定して解説します。
■不法行為?
ファンと被告は他人同士で契約関係がないので、法的には被告のファンに対する不法行為があったと主張することになります。
不法行為の請求が認められる要件は、簡単にいうと、違法な権利侵害、損害、違法行為と損害の因果関係、故意または過失が必要です。
■違法な権利侵害
AKBメンバーに切りつけること自体が違法行為であることは間違いありません。
さらに、ファンとの関係でも、本件のような凶行に及べば握手会が中止されることは確実ですから、ファンのもつ「握手会に参加する権利」を違法に侵害することは容易に想像できますし、実際に握手会が中止されてファンは握手会に参加する権利を不当に奪われているわけですから、違法な権利侵害があったということは可能でしょう。
■損害
握手会に参加するためにCDを購入しているとすれば、CD代金相当額が損害になることも基本的には問題なさそうです。
ただ、CD自体は無傷なわけですから、損害となるのはCD代金のうち、「握手会に参加する権利の価値」に相当する金額に限定される可能性が高いでしょう。
また、慰謝料は日本では簡単には認められませんので、難しいかもしれません(妻のようにAKBを愛していたということを立証できれば別ですが)。
■因果関係
凶行によって握手会が中止に追い込まれることは当然なので、切りつけ行為と上記損害の因果関係もあるといえるでしょう。
■故意・過失
メンバーに切りつけて凶行に及べば握手会が中止となることは犯人にとっても、社会通念からしても容易に予測がつきますので、故意過失の要件も問題なさそうです。
■判決
上記で検討したとおり、仮に被告が争ってきた場合でも、裁判所が被告のファンに対する不法行為の成立を認め、CD代金(の一部)相当額について損害賠償請求を認容する可能性は十分あると考えられます。
*著者:弁護士 星野宏明(星野法律事務所。不貞による慰謝料請求、外国人の離婚事件、国際案件、中国法務、中小企業の法律相談、ペット訴訟等が専門。)