解雇の恨みで会社のサーバー初期化…日本でやったらどうなる?

会社を解雇された男性が、勤めていた会社のサーバーを初期化するなどの復讐をし、1億円近くの損害を与えたとして禁固4年の刑が言い渡されたニュースが アメリカでありました。

日本で同じ様な行動をした場合、どのような責任を負う事になるのでしょうか?そして、解雇された事が不満だった場合、どうすれば良いのかを説明します。

残業

■1…民事責任と刑事責任の2つの責任

クビ(解雇)にされたことの腹いせに、サーバーを初期化した場合、会社の業務に支障が生じ、一定の損害が生じることが容易に想像できます。

この場合、民事上では、会社に対して不法行為に基づく損害賠償責任を負い、会社が被った損害を賠償することになり、刑事上では、業務妨害、背任という2つの罪に問われます。

 

■2…民事上の責任

民法709条が定める不法行為は、故意又は過失によって他人の権利又は法律上の利益を侵害した場合に成立し、それによって他人が被った損害を賠償する責任を負います。

腹いせにサーバーを初期化することは、故意に会社の権利又は法律上の利益を侵害したといえますから、会社に発生した損害(サーバーの復旧費用、それに要する人件費、サーバー初期化によって会社の取引に支障が生じた場合にはその損害)を賠償することになります。

 

■3…刑事上の責任

(1)業務妨害

サーバーを初期化することは、会社(法人)の事務・事業を妨害することにほかならず、刑法233条、234条が定める業務妨害の罪に問われる可能性があります。

業務妨害罪の法定刑は「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」です。この点に関し、威力業務妨害罪(234条)又は偽計業務妨害罪(233条)のどちらに該当するかが問題になります。

まず、威力業務妨害罪は「威力を用いて」人の業務を妨害した場合に成立しますが、「威力」とは、人の意思を制圧するような勢力をいい、社会的、経済的地位を利用した威迫、団体の力の誇示、騒音、物の損壊等およそ人の意思を制圧するに足りる一切の勢力を含みます。

しかし、サーバー初期化は、他の従業員の目を盗んでこっそりと行われるものでしょうから、人の意思を制圧するような勢力を用いたとはいえず、威力業務妨害罪は成立しないと思われます。

他方で、偽計業務妨害罪は「偽計を用いて」人の業務を妨害した場合に成立し、「偽計」とは、人を欺くことに限定されず、人を誘惑したり、計略や謀略を講じる等、威力以外の不正な手段を用いることを意味します。

したがって、サーバー初期化は、威力以外の不正な手段を用いた場合にあたり、偽計業務妨害罪が成立する可能性が高いでしょう。

 

(2)背任

刑法247条は背任罪について「他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金」に処すると規定しています。

クビと言われたとしても、即日解雇(通告された日をもって解雇)の場合もあれば、1ヶ月間の解雇予告期間経過後に解雇される場合もあります。そして、後者の場合、解雇予告期間が経過するまでは会社の従業員という身分が継続していますので、この期間中に腹いせにサーバーを初期化すると、背任罪に問われます。

具体的には、労働者は会社と雇用契約を締結しており、「他人のためにその事務を処理する者」にあたりますし、腹いせ目的は「本人に損害を加える目的」にあたります。

そして、サーバー初期化は、本人からの信任委託の趣旨に反する行為ですから、「任務に背く行為」に該当します。

 

■4…解雇されたらどうすればいいか?

上記の通り、解雇の腹いせにサーバーを初期化すると民事・刑事双方の責任を問われますので、当然ですが、そのような行為は決してやってはなりません。

解雇に納得できないのであれば、会社に対して、解雇理由証明書(労働基準法22条参照)を発行するように求め、同証明書をもって法律事務所に相談に行くのがよいでしょう。

この場合、相談を受けた弁護士が解雇が無効かどうかを判断し、無効となる可能性が高ければ、法的な手続(雇用契約上の地位確認訴訟等)をとることを勧めると思います。

なお、余談ですが、解雇されたことを証明する客観的な証拠(上述した解雇理由証明書のほかに、解雇通知書や解雇予告通知書、解雇する旨のメール等)がなければ、会社は「退職勧奨に応じて退職しただけで、解雇していない。」と主張してくることが多々有りますので、解雇されたことを示す客観的な証拠を確保することが何よりも重要です。

*著者:弁護士 川浪芳聖(琥珀法律事務所。些細なことでも気兼ねなく相談できる法律事務所、相談しやすい弁護士を目指しています。)

川浪 芳聖 かわなみよしのり

琥珀法律事務所

東京都渋谷区恵比寿1-22-20 恵比寿幸和ビル8階

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