「忘れられる権利」が話題に 日本でも認められる?

EUの最高裁が米検索大手Googleに対し、スペイン人男性が自分の過去の不名誉な情報へのリンクを検索結果から削除するよう求めた請求を認める判決を出したことが話題になっています。

いわゆる「忘れられる権利」を認めたものであるとして、大きく報じられたため目にした方も多いのではないかと思います。

では、日本において「忘れられる権利」は認められるでしょうか。この判決の意味と日本における現状について検討してみましょう。

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■「忘れられる権利」とは何か

「忘れられる権利」とは、簡単に言えば、インターネット上から情報が削除されることで、それ以降、第三者に当該情報を探索されない権利のことです。

日本では「忘れられる権利」があると判断されたことはありませんが、プライバシー権の一類型として整理することができます。

プライバシー権の保護が与えられる情報というのは、伝統的な考えに従えば、私生活上の非公表の事実に関する情報とされるところ、忘れて欲しい情報というのは過去の不名誉な情報ですから、少なくともいったんは公開されているものは、これに当たらないことになります。

しかし、プライバシー権を「自己情報コントロール権」として理解すれば、過去の事実に関する情報をプライバシー権の範囲に含めることができるようになります。そこで、自己情報コントロール権の一類型として「忘れられる権利」を位置づけることができると思われます。

 

■日本でも過去の事実のインターネット上からの削除は認められる

現状でも過去の不名誉な情報の削除は、一定の要件を満たす場合に認められています。

たとえば、新しく形成している社会生活の平穏を害されその更生を妨げられる場合には、インターネット上に掲載されている過去の犯罪報道の削除が認められる余地があります。

このことを敷衍(ふえん)すれば、一定の範囲で、実質上の「忘れられる権利」を実現し得るといえます。

 

■違いは“一括性”にあり

では、「忘れられる権利」と現状日本で実現できている権利行使とは何が違うのでしょうか。

「忘れられる権利」についての事例の積み重ねがないためはっきりとは言えませんが、おそらく個々のウェブサイトに対して削除を請求し得るのかという点と、検索エンジンに対して検索結果から削除するよう請求し得るのかの違いにあるように思われます。

「忘れられる権利」が認められれば、不名誉な情報が記載されたウェブサイトが大量にある場合、検索エンジン側のみを相手にすれば、当該ウェブサイトへのアクセスを一括して大幅に減らすことができるという点がメリットと思われます。

 

■日本では「忘れられる権利」は認められる?

日本でも「忘れられる権利」が認められるかですが、参考になる裁判例があります。

自分の名前を検索すると犯罪を連想させる単語がサジェストされるため、プライバシー権侵害を理由にGoogleにこの削除を求めたところ、東京高裁がその請求を棄却したというものです。

この裁判例は「忘れられる権利」とは直接関係はないですが、プライバシー権を理由にするものであるという点と、Googleに対するものであるという点で類似しています。

したがって、現状では「忘れられる権利」を認めてもらえることは難しいかもしれません。

もっとも、上述のように、一定の過去の不名誉な情報の削除は認めてもらえており、また、リンクの削除を認めている裁判例も存在しています。そのため、今後、「忘れられる権利」に類似する判断を出してもらえる可能性もあると思っています。

 

■蛇足~他の権利との利益調整も必要

「忘れられる権利」は、一面において自分の不名誉な情報を削除するというメリットがあるものですが、他の面から見れば他人の知る権利を侵害しているとも言えます。

たとえば、選挙に出馬しようとする人の情報であれば、不名誉な情報も含めて判断材料にしたいと思うのが通常であるため、削除されるべきではないと言い得ます。

このように、ある権利を認めるということは、他の権利を一定程度制約するということの裏返しになり得るということは考える必要があると思います。

 

*著者:弁護士 清水陽平(法律事務所アルシエン。インターネット上でされる誹謗中傷への対策、炎上対策のほか、名誉・プライバシー関連訴訟などに対応。)

*参照:グーグルにリンク削除義務 「忘れられる権利」認める – 47NEWS(よんななニュース)

清水 陽平 しみずようへい

法律事務所アルシエン

東京都千代田区霞ヶ関3-6-15 霞ヶ関MHタワーズ2F

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