ネット上を中心に「ユニクロ」や「ワタミ」などの企業が度々ブラック企業だと語られます。
更に「ブラック企業ランキング」が公開されているため、会社名で検索するとブラック企業情報などがヒットしたりします。
2ちゃんねるやTwitter、個人ブログなどで個人が自由に語っているだけ、という事が殆どかもしれませんが、影響力は少なくありません。この様に特定の企業をブラック企業と決めつけて呼ぶ事に法律上問題はいのでしょうか?
■1…名誉毀損・侮辱となる可能性
ある特定の企業を「ブラック企業」であるとブログやネット掲示板で名指しで批判した場合には、その批判内容によっては当該企業の評判・評価が低下したり、当該企業への入社希望者が減少する等の損害が発生することがあり得ます。
このように、一個人が特定の企業を名指してブラック企業呼ばわりしてブログやネット上の掲示板で批判した場合、法律上は、当該企業に対して名誉毀損又は侮辱とならないかという点が問題となります。
以下では、刑事上の責任(国家による刑罰が課されるかどうか)、民事上の責任(損害賠償責任を負うかどうか)に分けて簡単に説明します。
■2…刑事上の責任
刑法230条は、「公然と」「事実を摘示し」て「人の名誉を毀損した」者に対し、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処すると定めています(名誉棄損罪)。
まず「公然と」とは、不特定又は多数人が認識できる状態におくことを意味し、ブログやネット掲示板に書き込むことは誰でも見れる状態に置かれるわけですから、この要件を満たします。
次に、ブラック企業と名指しで呼ぶことが「名誉を毀損」したといえるかどうかですが、単に「●●会社はブラック企業である」というだけでは、何ら根拠・理由がなく具体性を欠いた主張ですので(一般人が信用するに足りない主張ですので)、当該企業の社会的評価(名誉)を害するに足る行為とまでは言えず、「人の名誉を毀損した」という要件を満たさないと思われます。
しかし、「違法な長時間労働を強いている」、「●●、▲▲といったセクハラ・パワハラが蔓延している。」といった具体的な事実を挙げた上で特定の企業をブラック企業呼ばわりした場合には、当該企業の社会的評価を害するに足りる行為といえ、「名誉を毀損」したと判断される可能性が十分あります。そして、この場合には、同時に「事実を摘示」したという要件も満たします。
もっとも、仮に、上述した全ての要件を満たしても、表現の自由の保障(憲法21条)との関係で、刑法230条の2が免責要件を定めています。この条文に関して判例の解釈も踏まえて検討すると、摘示した事実が(1)公共(社会一般)の利害に関する事実で、(2)専ら公益を図る目的があり、(3)摘示された事実が真実であった場合又は真実と誤信したことに確実な資料・根拠に照らして相当な理由がある場合には処罰されません。
なお、刑法231条が定める侮辱罪は具体的な事実を摘示しなくても成立する罪ですが、特定の企業を単にブラック企業呼ばわりしただけでは、同企業に対する社会的評価を害する危険を含んだ軽蔑の表示と認定できるかどうかが微妙であり、「侮辱した」という要件を満たさない(侮辱罪は成立しない)と思います。
■3…民事上の責任
企業(法人)の名誉を毀損した場合には、不法行為(民法709条)の成否が問題となり、不法行為が成立する場合には当該企業が被った損害を賠償する責任を負います。
しかし、上述した通り、一個人が具体的な根拠・理由を何ら示すことなく、単に特定の企業を名指しでブラック企業呼ばわりしただけでは、同企業の社会的評価を低下させるものとまでは言えず、名誉毀損の不法行為は成立しないでしょう。
他方で、根拠・理由となる具体的な事実を挙げた上で特定の企業をブラック企業呼ばわりした場合には、不法行為が成立する可能性が十分あります。
もっとも、上記1で示した免責要件を満たした場合には、民事上の不法行為も同様に成立しません。
*著者:弁護士 川浪芳聖(琥珀法律事務所。些細なことでも気兼ねなく相談できる法律事務所、相談しやすい弁護士を目指しています。)