大理石の床などは乾いている状態でも滑りそうで、歩いていて非常に怖いのですが、濡れていればさらに滑りやすくなります。
そこで店やビルなどでは入口に足ふきマットを置いてあるところが多数なのですが、逆にその足ふきマットの裏側が濡れていては滑り止めの効用は全くなくなってしまいます。
それどころか転倒の危険性が一層高まってしまいます。今回はそのような事件の裁判の判決であります。
まず転倒して負傷した原告側の2,800万円の請求内容ですが、これは単に慰謝料として2,800万円を請求したのではなく、おそらく慰謝料のほかに障害慰謝料、逸失利益を計上したものだと思われます。
原告の方のけがの症状は不明ですが、転倒によって何らかの後遺障害が残った場合はそれに伴う慰謝料が発生します。たとえば、交通事故のケースで言うと、指の関節を曲げることができなくなった場合は75万円、鎖骨・胸骨・肋骨・骨盤等に著しい変形が残った場合は224万円というような慰謝料額が決められています。
また、逸失利益ですが、先ほど記載したように後遺症が残ってしまった場合は、後遺症の程度により労働能力が喪失し収入が下がると判断されるので、下がったとされる分の逸失利益が認められます。例えば指の関節を曲げることができなくなった場合は労働能力は5%低下したという評価なので、年収の5%分×就労可能年数が逸失利益として認められます(正確には将来分を一括でもらうため一定の減額がある)。たとえば30歳、年収500万円の方の場合は約418万円となります。今回は2,800万円の請求となっていますので、おそらく収入がかなり多く、また後遺症の程度もある程度重かったものと推測されます。
さらに、仮に損害が認められたとしても、原告側にも過失はあるでしょうから、100%まるまる損害を認めることは不公平です。
原告の過失分は損害から差し引かなければなりません。これを過失相殺と言います。今回は足ふきマットの裏側が濡れていて滑りやすかったということで銀行側の過失を認めていますが、原告側ももっと注意していれば転倒することは避けられたと思われますので、損害のうち何割かは差し引かれたものと思います。
92万円という金額が妥当かどうかは非常に難しいところではありますが、少なくとも多数のお客さんが来店する場所では、店側はお客様の安全を守るため最大限の注意を払わなければならないということが示された判決であり、今後各方面で大きな影響が出るものと考えられます。