Mt.Goxがハッキングにより大量のビットコインを喪失したとして民事再生を申し立てていますが、実はMt.GoxのCEOがビットコインを取得したのではないか、という疑いが浮上したことが一部報じられています。
それについての回答はまだされていないということであり、実際のところどうなのかはまだわかりませんが、仮にそれが本当であればどのような罪が成立するのかを検討してみたいと思います。
■詐欺罪→×
ビットコインは「記録」、「データ」に過ぎませんが、ドルをはじめとした通貨との交換が可能な訳ですから、財産的な価値があります。
本件において、詐欺罪が成立するためには、ビットコインを預かった時点においてビットコインを奪ってしまおうと考えていたことが必要です。
今回、CEOがどのように考えていたのかということは分かりませんが、サービス開始時からそのようなことを考えていたということは言えないでしょうし、途中からそのように考えたとしても、どの時点でその範囲が生じたのかということの確定が難しいと思われます。
また、詐欺罪が成立するためには、錯誤に基づく財産的処分行為が必要とされますが、本件のような財物ではなく「利益」を得るような詐欺においては、判例は、被害者側が債務を免除する意思表示が必要であるとしています。
本件では、被害者がそのような意思表示をしているような事案とは思われません。そのため、詐欺罪が成立するということは難しいのではないかという印象です。
■電子計算機使用詐欺罪→○
これは、「詐欺」という名称が入っていますが、錯誤に基づく財産的処分行為が必要とされないため、厳密な意味での詐欺罪ではないのですが、その実態が詐欺罪に近いため、このように呼ばれています。
この罪が成立するためには、虚偽の情報や不正な指令を与えて財産権の得喪・変更にかかる不実な記録を作出する必要があります。
方法の詳細は分からないものの、預かり中のビットコインについて、その保有者が出していない取引の情報を与えることにより(虚偽の情報や不正な指令)取引をしていた場合には、成立する可能性があります。
■窃盗罪、横領罪→×
以前「ビットコインとは何?法的問題を弁護士が一挙に解説」でも解説したように、窃盗罪は物を盗むことにより成立します。ビットコインは記録、データに過ぎないため、窃盗罪は成立しません。
また、横領罪も物についてしか成立しないため、これも成立しません。
■不正アクセス禁止法違反→○
今回の手法がどのようなものかということは分からないものの、権限がないのに、預かり中のビットコインの保有者のIDやパスワードを無断使用している場合、不正アクセス禁止法に抵触することになります。
そのため、同罪が成立することになります。
■背任罪→○
背任罪というのは、他人のための事務処理者が、自己又は第三者の利益のために、その任務に背く場合に成立し、今回も当てはまる可能性があると思います。
Mt.Goxに当てはめると、Mt.Goxにはビットコインを預かり、換金等のサービスを提供するという任務があるにもかかわらず、そのCEOが自分の利益のためだけに自分にビットコインを移転させるということです。
■詐欺再生罪→○
あまり聞きなれない犯罪と思いますが、債権者を害する目的で、債務者の財産を隠匿するなどして、債務者について再生手続開始の決定が確定したときに成立するとされます。債権者というのは、今回の被害者であり、債務者というのはMt.Goxのことです。
CEOが会社ぐるみで、ハッキングによってビットコインが失われたと嘘をつき、CEOの元にビットコインを移し、他に保有していたビットコインも移していたとすれば、会社の財産を隠匿したと評価できる可能性があります。
詳細が不明なため仮定の話が多くなってしまいますが、一部報道が本当だとすれば、これらのようないろいろな罪が成立する余地があります。