20代女性のBさんは、一昨年第一子を妊娠・出産したため、産休を取ったあと、年子ができます。Bさんはどこかに心苦しい気持ちを抱えながらも、2年連続で産休を申請しました。
上司が激怒
ところが申請を知った上司が、年子の事実に激怒。「2年連続で妊娠なんて何を考えているのか」「さすがにこれはありえない。もう君はクビだ。」と言葉をぶつけられます。
Bさんは傷つき夫に相談すると、「それはマタハラだ」「そんな会社辞めればいい」と言ってくれたのですが、仕事にやりがいを感じ、家計的にも苦しいため、できれば辞めたくないと考えているそうです。
「年子の産休はけしからん」という理由で退職を迫る行為に違法性はないのでしょうか?琥珀法律事務所の川浪芳聖弁護士に伺いました。
このような行為は認められるのか?
川浪弁護士:
「結論から言うと、このような産休取得の拒否や退職勧奨は「マタニティハラスメント」(以下「マタハラ」といいます)に該当する違法な行為であり、認められません。
労働基準法65条1項は、6週間以内に出産する予定の女性労働者が休業を請求した場合にはその者を就業させてはならない旨(産前休業)、使用者は産後8週間を経過しない女性を就業させてはならない旨(産後休業)、を規定しています。本件では,女性の請求を前提とした産前休業が問題になっていると思いますが、産前休業に関して,法律上、取得回数の制限はありません。
また、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(いわゆる「男女雇用機会均等法」)9条3項は、妊娠・出産・産前産後休業の請求及び取得を理由に、解雇その他不利益な取扱いをすることを禁止しています。
そのため、女性が2年連続で産前休業を取得することは法律上可能であり、会社がこれを拒むことは労働基準法65条1項に反します。そして,労働基準法65条1項に違反すると,「6箇月以下の懲役または30万円以下の罰金」に処せられる可能性があります(労働基準法119条1号)。
次に,2年連続で産前休業を請求したことを理由として,女性に「クビだ。」等と発言することは,男女雇用機会均等法9条3項に反し(同条項の趣旨に抵触し),違法な退職勧奨に該当するといえますので,許されません」
マタハラに該当するのか?
川浪弁護士:
「平成28年厚生労働省告示312号は、①雇用する女性労働者の労働基準法65条1項の規定による休業その他の妊娠又は出産に関する制度又は措置の利用に関する言動により就業環境が害されるもの(制度等の利用への嫌がらせ型)、②雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したことその他の妊娠又は出産に関する言動により就業環境が害されるもの(状態への嫌がらせ型)の2類型を「職場における妊娠,出産等に関するハラスメント」、いわゆる「マタハラ」として取り扱っています。
本件における上司の言動によって女性の就業環境が害されることは明らかですので,同言動は上記①の「マタハラ」に該当します」
Bさんが不当性を訴えることは可能か?
川浪弁護士:
「産前休業取得の拒否は労働基準法65条1項に反しますので、違法状態の是正のために、労働基準監督署に申告することが考えられます。また、会社にハラスメント相談窓口が設けられている場合には、同窓口に相談して改善を求めることを検討してもよいと思います。
さらに、産前休業取得の拒否や産前休業請求を理由とした退職勧奨は違法ですので,会社(使用者)に慰謝料の支払いを請求する余地もあります。
特に、退職勧奨が執拗になされたことで、
勇気を出して争いを
Bさんの上司の行動はマタハラに該当する可能性が極めて高いといえます。実際のところ、争わず諦めて辞めてしまう人もいると聞きます。しかし、明らかな違法行為に対し、泣き寝入りすることはありません。納得できない場合は、勇気を出して争っていきましょう。
*取材協力弁護士: 川浪芳聖(琥珀法律事務所。些細なことでも気兼ねなく相談できる法律事務所、相談しやすい弁護士を目指しています。)
*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)