【法的に問題は?】事件や事故の被害者を写真入りで実名報道…弁護士が解説!

TV Broadcast news studio with many computer screens and control panels for live air broadcast.

昨今凶悪事件や重大な交通事故で死亡した被害者をメディアが実名で放送することに批判が集まっています。

真相は不明ですが、ある有名人が、「メディア関係者が卒業アルバムなどを提供する人間を探している。軽蔑する」と苦言を呈し、賛同者が殺到したこともありました。

被害に遭った遺族としては、自分の同意なしに顔写真や実名を世間に流されることについて、否定的になるのは当然のことでしょう。

メディアの実名報道は法的に許されているのでしょうか? パロス法律事務所の櫻町直樹弁護士に見解をお伺いしました。

 

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写真・実名報道に問題はないのか?

櫻町弁護士:「事件や事故が発生した場合、新聞やテレビなどのメディアで被害者の氏名や容貌(顔写真)が報道されることが一般的ですが、従来に比べて、そうした「被害者に関する報道」への批判も多くなっているように思います。

もっとも、「死者」に関する法的な権利保護は限定的であり、生存している個人と同様に保護される訳ではありません。

例えば、個人情報の保護に関する法律で対象となる個人情報は、「生存する個人に関する情報」(法2条1項)であり、死者に関する情報は対象とされていません。

死者の権利が保護される例としては、たとえば著作権法においては

「著作物を公衆に提供し、又は提示する者は、その著作物の著作者が存しなくなった後においても、著作者が存しているとしたならばその著作者人格権の侵害となるべき行為をしてはならない。」

と規定され、著作者が「存しなくなった後」も著作者人格権は保護されるとしています(法60条本文)。

また、刑法においては「死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。」(法230条2項)と規定され、虚偽の事実摘示による故人の名誉を毀損する行為が処罰対象とされています。そして、この場合の保護法益は「死者自身の名誉」と考えられています」

 

死者のプライバシーは保護対象にならない?

櫻町弁護士:「他方で、死者の「プライバシー」については、法的な保護の対象にならないと考えられています。

ただし、東京高等裁判所昭和54年3月14日判決・判タ387号63頁は、

「死者の名誉ないし人格権についてであるが、刑法二三〇条二項及び著作権法六〇条はこれを肯定し、法律上保護すべきものとしていることは明らかである。右のほか、一般私法に関しては直接の規定はないが、特に右と異る考え方をすベき理由は見出せないから、この分野においても、法律上保護されるべき権利ないし利益として、その侵害行為につき不法行為成立の可能性を肯定すべきである。」

としており、死者についてもそのプライバシーについても法的保護の対象になり得るという考え方を示しています。

しかし、上記東京高判は続けて、

「しかし、この場合何人が民事上の請求権を行使しうるかについてはなんらの規定がなく、この点につき著作権法一一六条あるいは刑事訴訟法二三三条一項を類推してその行使者を定めるとすることもたやすく肯認し難い。結局その権利の行使につき実定法上の根拠を欠くというほかない。」と、「法的保護の対象となる権利あるいは利益(プライバシー)が認められるとしても、行使はできない」

としているので、結局は、死者のプライバシーについては法的に保護されない、という解釈になるでしょう。

したがって、事件や事故による被害者の氏名や容貌が報道されたことに対して、被害者の遺族が報道機関を訴えるとすれば、遺族自身の「権利あるいは法律上保護される利益」(民法709条)が侵害された、といえる必要があります。

具体的には、「プライバシー」や「静穏に故人を悼む利益」、「敬愛追慕の情」などがあげられるでしょう。しかし、「プライバシー」として保護されるためには、一般に、公表される事柄が

ア 私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られるおそれのあることがらであること
イ 一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立つた場合公開を欲しないであろうと認められることがらであること、換言すれば一般人の感覚を基準として公開されることによつて心理的な負担、不安を覚えるであろうと認められることがらであること
ウ 一般の人々に未だ知られていないことがらであること

という要件を満たす必要があるとされています(東京地方裁判所昭和39年9月28日判決・判タ 165号184頁)。

「自分の家族が事件や事故でで亡くなったこと」が報道された場合、上記のうちアとウについては満たすといえるでしょう。

一方、イについては、(当該家族がどう思ったか、感じたかではなく)一般人の感受性・感覚に照らしてみた場合に「公開を欲しない」あるいは「心理的な負担、不安を覚える」か、一概には言えないように思われます(例えば、交通事故による被害者の場合と、性犯罪による被害者の場合とでは、判断は異なってくるでしょう)。

さらに、プライバシーにあたる場合であっても、それを公表されない法的利益よりも、公表する理由が優越するときには、公表は違法ではなく、プライバシー侵害による不法行為責任は生じません。

例えば、東京高裁平成17年5月18日判決・判時1907号50頁は、「プライバシー権の侵害については、その事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由とを比較衡量し、前者が後者に優越する場合に不法行為が成立するものである」と述べています。

また、「静穏に故人を悼む利益」や「敬愛追慕の情」についても、死者についての情報を入手する過程に違法がある、取材や報道の態様が社会通念上許容できる限度を超えている等の特段の事情がない限りは、その侵害が認められる可能性は低いとい思われます」

 

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遺族が損害賠償請求した事例も

櫻町弁護士:「例えば、津地裁四日市支部平成27年10月28日判決・判時 2287号87頁は、爆発事故で死亡した被災者の親が、葬儀における子(被災者)の遺影をテレビ局が同意なく撮影して報道に使用したことで、(プライバシー権としての)遺影を公表されない自由、静穏に故人を悼む利益、敬愛追慕の情が侵害されたとして、テレビ局に対して損害賠償請求をしたという事案です。

裁判所は、

「本件遺影は、スーツ姿のBの胸から上を撮影したもので、修正加工がされているものの、これは原告において髪の乱れを整える等見映えを良くするために行ったものであり、通常の一般人を基準とするとき、公表されることを欲しないものとはいえない。そして、前記前提事実(2)(4)のとおり、本件報道は、多数の死傷者を出し社会的関心の高かった本件事故の内容等を報道する過程で、被害者であるBの顔写真として、他の被害者と並べて本件遺影を報道したもので、本件遺影を報道することが不必要であるとか、不当な目的によるものであるということはできない。」、「本件撮影は、遺族の同意を得ずに行われたものではあるが、葬儀会場のエントランスポーチでBの妻が布をかけず遺影を持ち、参列者以外も本件遺影を見ることができる状況で行っており、原告及び他の遺族は、カメラを構えていることに気付きながらも撮影を制止するなどの明確な拒絶の意思を表示していない」

との事実認定を前提として、

「遺族の同意を得ず、隣地敷地から塀越しに撮影したこと等を考慮しても、本件撮影及び報道により、社会生活上受忍すべき限度を超えて原告の静穏に故人を悼む利益や、敬愛追慕の情を侵害したということはできない」

と判断し、遺族の請求を認めませんでした」

 

認められたケースも

櫻町弁護士:「一方、大阪地方裁判所平成元年1227日判決・判時134153頁は、遺族の「敬愛追慕の情」が侵害されたことを認めた裁判例です。

この事案では、エイズで死亡した患者の

「肖像写真等を入手するため」に、写真週刊誌のカメラマンが「来訪の目的、身分等を秘して・・・虚偽の申出をし、・・・関係者以外の立入りが認められていなかった右教会の二階に無断で上がり込み、原告らが右のとおり亡春子を静かにしのんでいる最中にフラッシュを使用して祭壇に飾られてあった同女の遺影を盗み撮りし、そのまま戸外に逃走し、そのような経緯で撮影された写真とともに、患者の経歴等を「エイズ死『神戸の女性』の足どり」との見出しで写真週刊誌に掲載したという事実を認定した上で、「本件報道は、亡春子の名誉を著しく毀損し、かつ生存者の場合であればプライバシーの権利の侵害となるべき亡春子の私生活上他人に知られたくないきわめて重大な事実ないしそれらしく受け取られる事柄を暴露したものであるが、このような報道により亡春子の両親である原告らは、亡春子に対する敬愛追慕の情を著しく侵害されたものと認められる」

としました。

したがって、事件や事故の被害者の氏名、容貌を報道したことについて、遺族が報道機関の責任を問うことができるケースというのは、かなり限定的であろうと思われます」

 

日本新聞協会が留意事項を発表

櫻町弁護士:「報道が遺族に対する関係で不法行為とならないのであれば、メディアに対して被害者の写真等を提供する行為は、報道の前提となる取材(に対する協力)ととらえることができますから、遺族の「静穏に故人を悼む利益」や「敬愛追慕の情」を侵害するものではない、ということになるでしょう。

とはいえ、事件や事故の報道において、被害者の氏名や顔写真といった情報が本当に必要不可欠といえるのか、必要性に乏しいと感じられるケースもあるでしょう。

例えば「日本新聞協会」が2001年12月、「集団的過熱取材に関する日本新聞協会編集委員会の見解」を発表しており、その中で、

「集団的過熱取材とは、「大きな事件、事故の当事者やその関係者のもとへ多数のメディアが殺到することで、当事者や関係者のプライバシーを不当に侵害し、社会生活を妨げ、あるいは多大な苦痛を与える状況を作り出してしまう取材」を言う。このような状況から保護されるべき対象は、被害者、容疑者、被告人と、その家族や、周辺住民を含む関係者である。中でも被害者に対しては、集団的取材により一層の苦痛をもたらすことがないよう、特段の配慮がなされなければならない」

「すべての取材者は、最低限、以下の諸点を順守しなければならない。
いやがる当事者や関係者を集団で強引に包囲した状態での取材は行うべきではない。相手が小学生や幼児の場合は、取材方法に特段の配慮を要する。
通夜葬儀、遺体搬送などを取材する場合、遺族や関係者の心情を踏みにじらないよう十分配慮するとともに、服装や態度などにも留意する。
住宅街や学校、病院など、静穏が求められる場所における取材では、取材車の駐車方法も含め、近隣の交通や静穏を阻害しないよう留意する」
引用元:集団的過熱取材に関する日本新聞協会編集委員会の見解

とされています。SNSが発達し、「個人による情報発信」が極めて容易となった今日、報道の意義、必要性などについて、改めて検証がなされるべきなのかもしれません」

 

考え直す時期に来ている?

被害者の実名報道が批判されていることは紛れもない事実です。

メディアの在り方について、考えていかなければならない時期に来ているのではないでしょうか。

 

*取材協力弁護士:櫻町直樹(パロス法律事務所。弁護士として仕事をしていく上でのモットーとしているのは、英国の経済学者アルフレッド・マーシャルが語った、「冷静な思考力(頭脳)を持ち、しかし温かい心を兼ね備えて(cool heads but warm hearts)」です。)

*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)

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櫻町 直樹 さくらまちなおき

パロス法律事務所

東京都千代田区九段北1-1-7 カーサ九段403

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