【弁護士が解説!】改正入管法と実務上の影響(1)

近年、外国人材の受け入れについての話題が多く報じられていますが、今回は、センチュリー法律事務所杉田昌平弁護士に、「入管法」の改正について解説していただきます。

第1 入管法の改正

2018年11月頃から「外国人材」という言葉を聞くことが多くなったのではないかと思います。きっかけは「出入国管理及び難民認定法」(入管法)の改正です。

2018年12月7日に第197回国会で改正入管法案が可決され、入管法が改正されることになりました。そして2019年4月から新しい入管法が施行されており、新しい在留資格「特定技能」での外国人材の受入れが開始されています。

入管法の改正の背景には少子高齢化に伴う働き手不足があったことは間違いありません。

これまで、外国人材の受入れについては一般社団法人日本経済団体連合会や日本商工会議所から制度改革の提言がなされてきました。

政府としても、働き手不足の一つの対応策として外国人材の受入れを採用したのだと思います。

第2 改正の概要

1 改正のポイント

改正入管法で変更された点を非常に短くまとめると「“特定技能”という新しい在留資格が創設された」とご説明することになります。

次の図表は日本で就労する外国人材について申請頻度が高い在留資格について、縦軸に専門性・技術性をとってまとめたものです。

図表1:在留資格の位置づけ
※杉田昌平『外国人材受入れハンドブック』8頁

入管法の改正によって新設されたのがオレンジ色の部分です。入管法改正で新設された「特定技能」は、専門的・技術的分野の在留資格とされる「高度専門職」や「技術・人文知識・国際業務」と、技術としてはエントリーレベルの「技能実習」との間に位置する在留資格です。

2 「特定技能」の影響

では、今回の入管法改正によって創設された「特定技能」は、実務上影響力が大きいものでしょうか。私の回答は「影響は大きい」と思いますし、実際に実務の現場でご相談を受けていて日に日に相談が増えることからも、影響が大きいことを実感します。

(1)在留資格の位置づけ

その根拠ですが、まず一つは、在留資格の位置づけです。

これまで日本はいわゆる専門的・技術的分野に限って外国人材を受け入れてきました。ですので、産業の現場を支えてくれる外国人材について、正面から「労働力」として受け入れた制度は、原則としてありませんでした。

もちろんこれまで、そして今でも産業の現場を支えてくれている人材として「技能実習生」がいます。彼/彼女達も「技能実習」という在留資格で日本に来てくれている外国人材と言えます。

ですが、技能実習は本来、技術等の移転による「国際協力を推進」を目的とした制度で(外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(技能実習法)1条)、労働力の需給の調整手段としては用いてはならないとされており(技能実習法3条2項)、産業の現場を支えてくれる外国人材受入れのための制度というものではありません。

今回の「特定技能」は、これまで専門的・技術的分野の在留資格の活動としては認められていなかった活動の一部を行うことを目的に日本に在留するための在留資格です。

これは、これまで専門的・技術的分野の在留資格で規定された活動以外の、産業の現場を支える一部の活動を目的とした在留を認めるようになったということを意味します。

つまり、今回の改正は、これまで外国人材を受け入れてこなかった産業の現場に関する業務について、一部の産業分野であり、一部の活動であるといえ、外国人材の受入れを行うようになったという意味で、質的に大きな変更であり、影響力が大きいものといえます。

(2)受け入れの人数

質的な変更点に加えて、量的な点についても注目して頂きたいと思います。もう一度「図表1:在留資格の位置づけ」をご覧ください。

各在留資格の下に記載があるのは、平成30(2018)年6月末に、当該在留資格で在留している方の人数です。

「技能実習1号・2号・3号」で在留している外国人材は約28万5,000人、「技術・人文知識・国際業務」で在留している外国人材は約21万2,000人います。

他方で、新設された「特定技能1号」の在留資格では5年間で約34万人の受入れが予定されています。

この34万人という人数は、それぞれ長い間運用されてきた「技能実習」や「技術・人文知識・国際業務」よりも、それぞれ比較すると多いことがわかります。

5年間という短期間で、これほどの規模での外国人材の受け入れを行うとすれば、やはり影響は大きいと言えるのではないかと思います。

第3 技能実習からの移行

今回は改正の影響点として「技能実習」から「特定技能1号」への移行についての問題点を概観したいと思います。

「特定技能1号」は、14の特定産業分野でのみ認められています。そして「特定技能1号」の在留資格を申請することができる外国人材は、大きく①技能実習二号の修了者か②日本語と技術の試験に合格した方のいずれかです。

この①技能実習二号を修了した方について、「特定技能1号」へ移行したい・させたいというニーズが外国人材・受入企業側から出てきています。

移行の際に検討すべき点は、技能実習二号での職種作業が「特定技能1号」へ移行可能かという点や在留資格変更許可手続だけではなく、技能実習生間の公平性や技能実習生・送出機関・監理団体との関係性等多岐に渡ります。

次の図表は特定技能制度の概要をまとめたものです。

図表2:特定技能制度概略図

  • 前掲『外国人材受入れガイドブック』49頁
  • 図表ではApache license version 2.0で配布されたMateral Icons(https://material.io/tools/ icons/)を使用しています。

特定技能制度は、日本の法律上の制度としては、理論的には外国人材(特定技能外国人)と受入企業(特定技能所属機関)の二者間で完結できる制度となっています。

自社で完結できるか否かを分ける基準としては、「一号特定技能外国人支援」という生活支援を受入企業が自社でできるか否かというのが一つの基準となります。

今回の改正では、外国人材について、業務内容で監理するという制度の発想から、外国人材が活躍できる環境の整備として生活支援を義務づけるという発想に変わっており、これまでより相対的に外国人材にとって望ましい受入れ体制が整備されやすくなっているといえます。

この「一号特定技能外国人支援」で行わなければならない項目は、入国前の情報提供や空港への送迎等多数の項目に渡っています。また、一部の支援は外国人材が理解しやすい言語で提供する必要があり、この「一号特定技能外国人支援」については「一号特定技能外国人支援計画」を作成する必要があり、同計画は外国人材の理解できる言語と日本語で作成し、写しを外国人材に交付する必要があります。

なかなかハードルが高い要件でして、こういった支援ができるのは既に「技能実習」の受け入れ経験がある企業で、かつ、送出国の外国人材を既に採用していて通訳等が自社で確保できる場合になるのではないかと思います。

また、このような体制が構築できたからといって、自社と外国人材のみの契約が完結するかというと、そうではありません。

現在締結されている送出国側の協力覚書(MoC)を見ると、やはり送出機関の関与が必要と思われる国があります(なお、筆者が送出機関を定期的に訪問し意見交換する中で感じるのは、送出機関が安全教育を行っているから労災が少なくなっている等、送出機関が果たしている役割もあるという点です。もちろん保証金をとるような送出機関もあると思いますが、送出機関の実態を見て実態に即した評価をすべきように思います。)。

さらに、技能実習生は送出機関(や関連する教育機関)で日本語や技術を学び日本に来ています。自社と外国人材だけの関係にします、と簡単に整理できる関係ではない可能性もあり、その点にも配慮が必要です。

その他にも、技能実習生が多数いる職場では、「技能実習」の在留資格の外国人材と「特定技能1号」に移行する外国人材の間に不公平感が出ないようにすることや労働契約法18条の適用、「技能実習」と「特定技能1号」のインターバルと検討しなければならない課題は多岐にわたります。

可能であれば経験のある登録支援機関、弁護士又は行政書士に相談しながら十分な受け入れ体制を整備するのが望ましいといえます。

さて、分量が多くなってしまったので、次回は「改正入管法と実務上の影響(2)」としてコンプライアンス上の問題について概説したいと思います。

 

 

著者:センチュリー法律事務所 杉田昌平弁護士(東京弁護士会所属)

入管法施行規則に基づく届出済弁護士(2013年~)
名古屋大学大学院法学研究科研究員・慶應義塾大学法務研究科グローバル法研究所(KEIGLAD)研究員・ハノイ法科大学客員研究員
2年間のベトナムに赴任していた経験を活かし、大手企業から中堅・中小企業の外国人材の法務を扱う。外国人材の採用・法務・労務に関する数多くのセミナーで講師も務めている。

プロフィール:http://century-law.com/lawyers/shohei_sugita

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