皆さんがお勤めの会社では、「みなし残業代」「固定残業代」など、定額の残業代を支給する制度を採用しているところもあるかと思います。
定額の残業代について、平成29年7月31日、同日付基発0731第27号「時間外労働等に対する割増賃金の解釈について」を前提にした通達が出ました。
通達では、時間外労働等に対する割増賃金を基本給や諸手当にあらかじめ含めて支払っている場合の留意点が記載されていますので紹介します。
■2つの留意点とは
(1)通常賃金と割増し賃金が明確に区別されているか
1つ目は、基本賃金等の金額が労働者に明示されていることを前提に、例えば、時間外労働、休日労働及び深夜労働に対する割増賃金に当たる部分について、相当する時間外労働等の時間数又は金額を書面等で明示する必要があります。
“通常の労働時間の賃金に当たる部分”と“割増賃金に当たる部分”を明確に区別できるようにしているか確認することです。
(2)定額の割増賃金が不足している場合は追加で支払う
実際の時間外労働等の時間に応じた割増賃金の金額が、定額の割増賃金額を上回る場合には、その差額を追加して所定の賃金支払日に支払わなければならなりません。
例えば、定額の残業代として30時間分定額の割増し賃金を払っている事業所で、40時間時間外労働をした社員がいたら、10時間分の割増賃金を賃金支払い日に払わなければならない、ということになります。
そのため、2つ目は、使用者が、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日付基発0120第3号)を遵守し、労働時間を適正に把握しているか確認することです。
■会社がとるべき対応とは
時間外労働等に対する割増賃金を基本給や諸手当にあらかじめ含めて支払っている会社は、労働条件と定額残業代の「明示」に注意する必要があります。
(1)監督指導への対応
現在の裁判実務では、実際の割増賃金と定額残業代との差額を毎月支払っていなければ、定額残業代制度そのものを否定される取り扱いが定着しています。
そこで、労働基準監督署から監督指導があった場合には、実際の割増賃金と定額残業代との差額を支払う等の対応が必要と考えられます。
(2)労働条件の明示が重要
また、通達が前提としている基本給等の労働条件の明示がなされていない場合は、定額残業代制度が規定されている就業規則等があっても定額残業代制度そのものが無効と判断されて、労働契約の内容に定額残業代が含まれていないと判断される可能性があります。
そのため、書面で、基本給等の労働条件を明示しておくことが重要です。
(3)定額残業代の明示が必要
定額残業代が有効になるための要件のひとつとして、最高裁判例(高知県観光事件最高裁平成6年6月13日判決)は、「通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別すること」ができるかどうかを挙げています。
今回の通達では、「判別」させるために、「相当する時間外労働等の時間数又は金額を書面等で明示するなど」を求めています。
書面等が何を指すのかは示されていませんが、労働契約書や労働条件通知書において、定額残業代に該当する残業代の金額又は時間数を明示することは必要不可欠です。
給与明細においても毎月の定額残業代の金額と時間数を明示すれば、「明示」の要件は満たすと思われます。
*著者:弁護士 渡辺祥穂(丸の内ソレイユ法律事務所の弁護士。「民事事件・刑事事件ともに、安心してお任せいただけるよう、皆様が抱えていらっしゃる不安や悩みをできる限りお伺いし、お一人お一人に丁寧に向き合い、対応させていただきます。」)
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