昨今、保育所不足で子どもを預けることができず、待機児童が増えてきていることが社会問題となって久しいですが、保育園にどうしても子どもを入れたいがために家族形態や就労状況を偽るといったことが行われているようです。
具体的には、家族形態を偽るために、「偽装結婚」をしていたり、実際には働いていないのにも関わらず、会社に勤めているように見せるために、偽造の就労証明書を発行するような「アリバイ会社」と呼ばれる会社も存在しているようです。
今回はそのような、家族形態や就労状況を偽る行為に違法性はないのか、解説していきたいと思います。
■違法性が高く危険
お分かりの方も多いのではないかと思いますが、保育園に子どもを入れるために家族形態や就労状況を偽装することは、法律上、大きな問題があります。
偽装結婚はもとより、偽造の就労証明書を発行させることは、有印私文書偽造罪、同行使罪という立派な犯罪となるおそれがあります。
偽装結婚は、それ自体が直接に犯罪行為ということではなく、婚姻届の配偶者欄の署名押印を偽装したり、真に婚姻共同生活を営む意思が全くないのに虚偽の婚姻届を作成し、提出する行為が違法となります。
偽装結婚の婚姻届により虚偽の戸籍記録が作成された場合は、電磁的公正証書原本不実記録罪となりえます。
また、虚偽の就労証明書の作成は、作成名義人(文書発行者)に虚偽や不正確性がある場合は、まさに有印私文書偽造罪、同行使罪となります。
保育園に入れるためという目的があっても、当然、違法性は阻却されず、正当化はされません。
■アリバイ会社側や協力者も刑事責任に問われる
偽装結婚に協力した相手方配偶者や、虚偽の就労証明書、源泉徴収票を作成したアリバイ会社も、依頼主とともに有印私文書偽造罪、同行使罪等の共犯として処罰される可能性があります。
報酬を受けることは共犯の必要要件ではないので、例え無償で偽装結婚に協力した場合でも、共犯となりえます。
アリバイ会社が無償ということは通常ないと思いますが、報酬をもらって継続的に作成名義や発行者が虚偽の就労証明書を発行していれば、有印私文書偽造罪、同行使罪の共犯として刑事責任を負う可能性は高いです。
実際に、在留資格目的での虚偽の就労証明や婚姻届提出で検挙される例は珍しくありませんので、アリバイ会社の違法性が強い事案では、検挙となるケースも出てくるかもしれません。
なお、アリバイ会社が、登記上の会社名義を正確に文書作成者として表示しており、在籍の事実だけが虚偽の場合は、刑法上の私文書偽造罪とはなりませんが、虚偽の偽造書類によって第三者に損害を与えた場合は、不法行為責任に問われ、民事上の違法性は残ります。
待機児童問題はなかなか解消されず、困っている方も多いと思いますが、虚偽の書類を作成することは、違法性が高い危険な行為です。
発覚すると最悪の場合、入所許可取り消しもあります。軽々に虚偽の書類偽造に走ることがないよう注意しましょう。
*著者:弁護士 星野宏明(星野法律事務所。不貞による慰謝料請求、外国人の離婚事件、国際案件、中国法務、中小企業の法律相談、ペット訴訟等が専門。)
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