赤ちゃんがおなかに宿り、生まれてくることはおめでたいことです。
しかし、働いている人にとっては、雇用が継続されるのか、会社を休んだ場合に収入はどうなるのか、など不安も生じます。
かつては、女性労働者が結婚のタイミングで退職したり、あるいは、既婚で働いていても妊娠すると当然のように会社を辞める風潮でした。しかし、それでは女性の能力を生かすことが出来ず社会的な損失ですし、また、少子化の原因ともなり大げさに言えば日本の国力を弱くします。
そのため、国は法律を定め、働く女性やその所帯を応援しています。北欧などに比べるとまだまだ不十分ですが、その不十分な制度すら、あまり利用されていない現実があります。
3つのポイントに分けて紹介しますので、この記事を契機に大いに産休制度や育休制度を利用して欲しいと思います。
●(1)産休はいつでも誰でも取得できる
まず、誤解があるのは、長期間働かないと産休(産前休業と産後休業)が取れないのではないということです。
法律によれば、産休を取るには、その前に一定期間働くという条件はありません。働いてすぐに妊娠が分かったときでも、産休を取れます。それ以外の条件もありません。パートでも、派遣社員でも、契約社員でも産休は取れます。
会社が産休を与えないと法律違反となります。会社は、妊娠、出産を理由に女性労働者を解雇できません。当然、解雇を促すような肩たたきも違法です。
産休の期間ですが、出産予定日の6週間まえから出産後8週間です。
産休中は無給であるのが原則ですが、会社によっては給与が出るところもありますから、調べてください。会社から出なくても、健康保険から、賃金の3分の2相当分の出産手当金が出ます。
出産予定日前の産休は、女性労働者の申請によって取れます。つまり、体調が良く働きたい女性は働くことが出来ます。その際、妊産婦にふさわしい業務に変えて欲しいと会社に言えます。
出産後8週間は、働くことが法律で禁止されています。例外として、産後の経過が良い母親は、医師の診断書がある場合に限り、6週間を過ぎれば職場に復帰できます。復帰する際も会社とよく相談し、子育てや母親の体調に配慮してもらってください。
●(2)育休を取るには条件がある
次に育休(育児休業)を説明します。育休は、1歳未満の子供がいる「男女」労働者に認められた権利です。
子供が1歳になるまでは、労働者の申請によって認められます。つまり、子供を誰かに預かってもらい、フルタイムで働きたい人は、そのような働き方が出来ます。
育休を取るには一定の条件があります。全く条件のなかった産休とは異なるところです。下記の通りです。
・雇用された期間が1年未満だと育休を申請出来ません。
・期間労働者で1年以内に雇用関係が終了する場合も申請出来ません。
・週の所定労働日数が2日以下の労働者も申請出来ません。
・日々雇用される方は育児休業を取得できません。
上記に当てはまらなければ、パートでも契約社員でも派遣でも育休を取得できます。取得できる期間は子供が1歳になるまでです。会社は育休を理由に解雇できませんし肩たたきなども出来ないことは産休と同じです。
育休期間中は無給ですが、会社によっては賃金を支払うところもあります。会社から賃金が出なくても、雇用保険に加入している人は、雇用保険から50%相当額の手当が出ます。
●(3)子供が小学生になるまではいろいろ要求できる
子供が2歳になっても、小学生になるまでは、いろいろと会社に要求できます。主なものをあげます。
・短時間勤務制度
会社は、一定の条件を満たす3歳未満の子どもを育てる労働者のために、短時間勤務制度(1日原則として6時間)を設けなければなりません。
・所定外労働の制限
会社は、一定の条件を満たす3歳未満の子を育てる労働者から請求があったときは、所定外労働をさせてはいけません。
・子の看護休暇
小学校入学前の子どもを養育する労働者は、会社に申し出ることによって、年次有給休暇とは別に、1年につき5日間、子どもが2人以上なら10日間、病気やけがをした子どもの看護、予防接種及び健康診断のために休暇を取得することができます。
・時間外労働、深夜業の制限
会社は、小学校入学前の子どもを養育する一定の労働者から請求があった場合は、1か月24時間、1年150時間を超える時間外労働をさせてはならないことになっています。また、深夜(午後10時から午前5時まで)において労働させてはなりません。
詳しい内容は、会社がある都道府県の労働局雇用均等室に問い合わせてください。
私が弁護士になったころは、男女雇用機会均等法もありませんでした。その時に比べると法制度の上では、日本も大分進歩しました。しかし、労働者の権利意識が低くまた雇用主の遵法意識も低く、せっかくの制度が利用されていません。この記事を契機に大いに休業制度を利用してください。
*この記事は2015年2月に掲載されたものを再編集しています。
*著者:弁護士 星正秀(星法律事務所。離婚、相続などの家事事件や不動産、貸金などの一般的な民事事件を中心に、刑事事件や会社の顧問などもこなす。)
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