外から見ていると華やかな世界に見えるアパレル業界。
店頭ではオシャレな服を着た店員さんが出迎えてくれ、コーディネイトの参考になることも多いですよね。
そんな店員さんの着ている洋服や靴などは、自社製品であることが多く、中には自腹で買い取りをさせられていることも多いそうです。
このような自腹での自社製品の買い取りは法的にどうなのか考えてみたいと思います。
●自社製品の着用が問題になるのは2つのパターン
常識的な話ですが、店員さんが自分の自発的に自社製品を購入して店頭で着ることについては、何も問題有りません。
問題となるのは、(1)自社製品を店頭で着ることが強制されている場合、(2)さらに、その自社製品を自腹で購入することが強制させられている場合です。
まず、(1)については、違法となることは、ほとんど考えにくいと思います。企業には営業方針を決める自由があり、企業が店員に対して自社製品を店頭で着用させることは自社製品を顧客にアピールする意味で有意義です。
また、アパレルの店員になる人にとって、その会社で働けば自社製品を着用しなければいけないことは、ある程度覚悟の上で就職していると思われます。事前に説明さえしておけば、特に問題になることすら想定しにくいと思います。
問題となる可能性が高いのは(2)の場合です。
自社製品を店頭で着用しなければいけないとして、その衣装そのものや衣装代が支給されているのであれば、特に問題は起きないと思いますが、店頭で着る自社製品を自腹で購入するよう強制されている場合は、違法となる可能性があります。
アパレル業界では、「社販」といって、従業員は一般小売価格から割引して購入できることも多いと思いますが、いくら割引があるとはいえ、月々の給料に比してその金額が過大になると、不満を覚える方も少なくないでしょう。
その根底には、「この会社で働きたかったら、会社の方針に従わなければならない」という会社と従業員という立場の強さを利用した強制的な販売であるという問題があります。
そういった販売の方法は、場合によっては「強迫」により購入の意思表示をしたとして売買契約取消の対象になり得ると思います。また、これも程度によるとは思いますが、「公序良俗」に反するやり方であるとして違法と評価され得ると思います。
●どんな時に違法になるのか?
では、どういう場合に社販で洋服等を「買わされた」ことが違法となるか、です。こういう問題では一概に明確な基準は立てにくいですが、個々の事情を考慮していくことになります。
例えば、社販が何割引で、給料のうちどれくらいの割合を自社の洋服代に費やすことを余儀なくされているかという点も重要ですし、購入する洋服等を自由に選べるかどうか、どの程度の頻度で購入しているか、購入するに至った経緯といった点も軽視できないポイントでしょう。
ただ、こういった問題については、仕事を続けているうちはなかなか会社に言いだせないもので、相談を受ける立場である我々弁護士にとっても悩ましいところです。
*著者:弁護士 河野晃 (水田法律相談所。兵庫県姫路市にて活動しております。弁護士生活5年目を迎えた若手(のつもり)弁護士です。弁護士というと敷居が高いと思われがちな職種ですが、お気軽にご相談していただけるような存在になりたいと思っています)