先日、東京地裁で注目すべき判決が出されました。
すでに報道等でご存知の方も多いと思いますが、17歳のアイドルが交際を制限するという契約条項(以下「恋愛禁止条項」といいます。)に違反して異性と交際し、これによってアイドルグループが解散に追い込まれたとのことで、アイドルに対し約65万円を所属事務所に支払えという内容の判決です。
アイドルであろうと人間であり、異性との交際はある意味人間として当然の行為であります。それを制限するという契約は極端なことを言ってしまうと、人間としての生き方を否定される契約であるとも言えるでしょう。
●アイドルの場合は特殊なのか
また、事務所もアイドルを利用して利益を得ている以上、アイドルの交際による売り上げ減というリスクは事務所が負うべきであるとも考えられます。となると、恋愛禁止条項は無効という判断になるとも思えます。
しかしながら、一般の職業とは異なり、芸能人、特にアイドルの場合は、異性との交際がファンに発覚したら大幅な売り上げ減になり、場合によってはアイドルとしての活動ができなくなるということは公知の事実であります。
なかには交際や結婚といった事実が発覚しても人気が衰えないというアイドルもいないわけではありませんが、やはりそのようなケースはごく一部でしょう。ですので、アイドルに交際を禁止させたいという事務所側の考えもわからないではありません。
専門家の間でも恋愛禁止条項の有効性については議論となっており、結論が出ない状況でした。そんな中、冒頭で述べた判決が先月出されたのです。
判決では、恋愛禁止条項を有効と判断し、事務所側の賠償請求を認める判決が出され、裁判所はアイドルに対して65万円の賠償を命じました。
これで一応の判断が出されたことになりますが、ただ、いくら恋愛禁止条項が有効だとしても、例えば成年になった以降も相当長期間交際を禁止するというような極端に交際を制限する条項は当然無効でしょう。
●今回の判決は合理的かもしれない
また、恋愛禁止条項に違反した際の違約金を1億円にするなどというように、アイドル側に極端な賠償義務を課する条項もおそらく無効であると思われます。
今回の判決でも、賠償が認められたのは衣装代やレッスン代といった実損害に限り、交際が発覚しなければ得られたであろう利益の賠償までは認めていないようです。
それゆえ、今回の裁判所の判断は恋愛禁止条項を有効としつつ、賠償の範囲を限定するといった形でアイドルと事務所双方のバランスを取っております。賛否両論あり非常に難しいところですが、ある程度合理性をもった判決ともいえるのではないでしょうか。
アイドルの恋愛禁止条項については議論が重ねられる分野であり、具体的な判例が積み重ねられると思いますので、今後とも注視していきたいと思います。
*著者:弁護士 山口政貴(神楽坂中央法律事務所。サラリーマン経験後、弁護士に。借金問題や消費者被害等、社会的弱者や消費者側の事件のエキスパート。)