盗撮されたと女性から被害届があり、警察が犯人らしき人を探しカメラの中身を確認すると、男性の写真ばかりが出てきたので、「紛らわしい行動は謹んで」と注意だけしてそのまま返したという地方紙の記事が話題になっています。
ネットでは、被害者が女性だと逮捕されるのに、男性だと逮捕されないのはおかしいと言った声があります。
盗撮は、迷惑防止条例で定められています。都道府県によって多少の違いはありますが、被害者が男性か女性かによって区別はされていません。従って、男性の胸や股間あるいは臀部などを公共の場所で盗撮したら、迷惑防止条例違反となります。
罪名は異なりますが、私が弁護した事件で、男湯を覗き、住居侵入罪で逮捕された事案があります。軽犯罪法などでも、人が覗かれたら嫌な場所(風呂場、トイレなど)を覗くと処罰されますが、被害者が女性でも男性でも同じです。
それでは、なぜ、冒頭の記事では注意だけでおとがめなしだったのでしょうか。ここから先は私の推測になります。
●なぜ同じ盗撮でも許された?
まず考えられるのは、警察官が迷惑防止条例を誤解していたことが考えられます。つまり、男性が公共の場所で盗撮されても迷惑防止条例違反にならないと誤解していた可能性があります。新聞記事を読むと、新聞記者も同じ誤解をしているように読めます。
次は、被害者が特定できなかった可能性があります。この種の事案では、被害者の住所、氏名が明らかでないと立件できません。
当初被害届をした女性の写真がカメラの中にあれば、間違いなく立件されますが、男性の写真しかなく、その男性の氏名、住所が特定できなかった可能性があります。だとすれば、立件できませんので、説諭だけで釈放するしかありません。
第3の可能性としては、警察官が被害者を特定する努力をしなかったことが考えられます。
女性が写っていたような場合だと、その女性を探し出して、写真を見せ、被害届を出すか否か確認するのが通常の捜査です。今回は、男性しか写っていなかったので、警察官がその男性を探すのが面倒なので、探す努力をせずに釈放した可能性があります。
第1の場合あるいは第3の場合だと警察の職務怠慢だと思います。ただ、現実問題として、写真を撮られた男性が被害届を実際に出すのか疑問はあります。
●被害を受けても男性は非協力的かもしれない
余談ですが、この種の犯罪でも、被害者は、最低3時間程度の事情聴取を受け、調書を取られ、そこに署名押印する必要があります。
もしかしたら、その後も、被疑者の弁護人から示談交渉を持ちかけられたりもします。女性だと被害感情が高いので、警察に協力しますが、男性だとあまり協力しないと思われます。
*著者:弁護士 星正秀(星法律事務所。離婚、相続などの家事事件や不動産、貸金などの一般的な民事事件を中心に、刑事事件や会社の顧問などもこなす。)