なぜ? 殺人未遂が殺人よりも重罪になることがある

「殺人罪」の中には、「殺人既遂罪」と「殺人未遂罪」があります。

前者は、殺意をもって殺害行為に及び、実際に人を死なせてしまったケース、後者は殺害行為には及んだけれども人が死ななかったケースを指します。

人が死んでいないのですから、既遂の場合に比べて、未遂は刑が軽いと思われる方も多いでしょう。しかし、実際には、未遂の場合でも、かなり量刑が重くなるケースもあります。

今回は、未遂罪で刑がどのような場合に重くなるのか、解説したいと思います。

牢獄

■重い刑が課された代表的な例

殺人未遂罪は、既遂の場合に比べて「刑を軽くできる」にすぎませんので、実際に刑を軽くせずに適用することもできます。そして、殺人既遂罪については、死刑や無期懲役刑が規定されているので、刑法の条文だけ見ると、未遂の場合でも被告人を死刑にすることも可能であるかのように思えます。

しかし、現在の刑法が制定されて以降、殺人未遂罪に対して死刑が適用されたケースはありません。これは刑罰の本質の1つとして「応報」が挙げられているからではないかと考えられます。

人を死なせていないにもかかわらず、被告人を死刑にすることは「応報」という考え方に反するといえるからです。

殺人未遂罪で課された一番重い刑は、無期懲役刑です。これは、日本赤軍のメンバーが起こしたハーグ事件・ダッカ事件というテロ事件について言い渡されたものです。

また、平成26年2月7日には、神戸地方裁判所で懲役18年を言い渡された殺人未遂事件がありました。

この事件は、営業時間中の市役所庁舎に放火したケースで、中に人がいて焼死する危険性があるのを認識していたと認定され、現住建造物放火罪の他に殺人未遂罪が適用された事件でした(他に公務執行妨害罪も認定されています)。

 

■殺人未遂罪の刑が重くなるのはどのようなケース?

一般的に、犯罪に対する量刑を決めるには、発生した結果だけでなく、方法がどれだけ悪質か、動機に同情できる余地があるかなど、様々な事情が考慮されます

先の例では、幸いにして人は亡くなりませんでしたが、一歩間違えば多数の人が亡くなる危険性があったといえます。また、神戸地裁の事件では、庁舎内にガソリンが巻かれており、手段もかなり悪質です。

自身の政治思想の実現や市役所の職員に対する不満といった動機も、同情の余地があるとは到底いえないでしょう。

このようなケースでは、「未遂」とはいえ、非常に重い刑が科されることになると考えられます。

また、ここまで極端な例でなくとも、被害者の負った傷害が軽い場合よりも重い場合の方が当然刑は重くなりますし、例えば1回しか首を絞めたり刺したりしなかったケースよりも執拗に殺害行為を反復継続したようなケースも、当然刑は重くなります。

一般の人からすると信じられないかもしれませんが、量刑が多様な事情に決められる結果、このような一種の逆転現象が起こることになるのです。

 

*著者:弁護士 寺林智栄(ともえ法律事務所。法テラス、琥珀法律事務所を経て、2014年10月22日、ともえ法律事務所を開業。安心できる日常生活を守るお手伝いをすべく、頑張ります。)

寺林 智栄 てらばやしともえ

ともえ法律事務所

東京都中央区日本橋箱崎町32-3 秀和日本橋箱崎レジデンス709

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