今年も長い梅雨が始まりました。外を出歩くことが多い営業職の人などは、雨を億劫に感じることも多いでしょう。
そんな梅雨によくあるトラブルが、車の運転による泥はねです。歩行者の衣服や靴を汚したり、家の壁が汚れたりと厄介な結果をもたらします。
そのような被害にあった場合、被害者としては泣き寝入りするしかないのでしょうか。運転者に対して金銭が請求できる場合はあるのでしょうか。
■民法の不法行為の成立の可能性
車の泥はね運転が民法上の不法行為に該当する場合、被害者は加害者に対して損害賠償を請求することができます。そこで、車の泥はね運転がどういう場合に不法行為に該当するのか検討します。
泥はね運転で衣服が汚れてしまった場合、まず問題となるのが、運転者に、歩行者に泥をはねたことについて故意又は過失があるかどうかという点です。
水たまりを前方に確認した場合は、水たまりを避けて走行したり、歩行者が水たまりの横を通り過ぎるのを待ったりすることも可能と考えられますから、そのようなことを考えずに歩行者に対して泥をはねてしまった場合は運転者に故意又は過失が認められる場合が考えられます。
一方で、道が狭くて水たまりを避けられない場合、急に徐行をするとかえって交通の妨げになってしまう場合等、運転者が水たまりに気づかなくても仕方ないような事情がある場合等は、運転手に故意又は過失があったとは認められず、不法行為の成立が否定される場合も考えられます。
●泥はね運転によって汚れたことを証明しなくてはいけない
次に、不法行為が成立するには、運転者の泥はね運転と被害者の衣服等が汚れたという損害との間に因果関係が認められることが必要となります。
多くの車が通行しており、どの車が泥はね運転をしたのかわからない場合や、歩行者自身が水たまりの中を通行していた場合等、泥はね運転と損害との因果関係の認定に困難を要するケースも考えられます。
最後に、運転者の故意又は過失が認定され、泥はね運転と損害との間に因果関係が認められる場合でも、損害賠償を請求できるのは、一般的には、汚れた衣服等のクリーニング代や、クリーニングで落ちない汚れがある場合にはその衣服等を金銭的に評価した場合の金額にとどまると考えられます。
■泥はね運転による被害を損害賠償請求できるケースはあまり考えられない
以上のように、泥はね運転を不法行為として運転者に損害賠償請求するのは容易ではありません。
ここで、もう一つ問題となるのが、立証の難しさです。たとえ被害者が運転者の泥はね運転が不法行為に該当すると考えたとしても、実際に裁判等によって損害賠償を請求しようとする場合は、その主張を証拠により立証しなければなりません。
人通りが少ない道では目撃者もいないでしょうし、防犯カメラが備え付けられている公道も一部にとどまるのですから、泥はね運転をした車を特定することや、被害が泥はね運転によって生じたことを立証するのはかなり困難と考えるべきでしょう。
*著者:弁護士 鈴木翔太(弁護士法人 鈴木総合法律事務所)
*perming / PIXTA(ピクスタ)