「スイカ写真事件」または「みずみずしいスイカ写真事件」というなんとも不思議なネーミングの事件があったのはご存知でしょうか?
これは、みずみずしいスイカを凶器に使用した殺人事件のこと……ではなく、スイカを被写体にした写真を巡る著作権について争われた裁判のことです。
一言でいえば、下の2つの写真の類似性が問題となり、被告が撮影した右の写真が、左の原告の写真の著作権を侵害しているのではないかが争われたものです。
裁判では、一審の地裁では類似性が否定され、著作権侵害は認められませんでしたが、二審の控訴審では、類似性が肯定され、被告による著作権侵害が認定される結果となりました。
一審と控訴審で結論が変わる事案は、裁判実務上、控訴事件全体に占める率は多くないものの、数としてはそれなりにあり、珍しいというわけではありません。
スイカ事件で、地裁と控訴審で結論が真逆になったのは、裁判官でも判断が分かれるほど類似性の要件判断が微妙だったからです。
■類似性とはどのように判断するのか
写真の著作権侵害を判断するにあたっては、それぞれの写真の類似性が問題とされます。類似性がない以上、著作権侵害にはならないからです。
難しいのは、何をもって類似性があるといえるかという点ですが、基本的には、2つの作品のあらゆる状況を総合考慮して決定されます。
スイカという対象はもちろん、配置及び構図、色使い、背景、大きさ、種類、個数など、全ての事情をみて判断します。
スイカ事件の控訴審では、被告が、原告の写真と同じような構図等を思いつくのは不可能ではないが、相当な偶然というべきだとして、類似性を認めました。
ただ単に、スイカの写真であれば、多くの人が簡単に思いつくことですが、上の写真のスイカは、いかにもみずみずしいことが強調されるよう、配置や構図、スイカの切り方、並べ方も工夫されています。
微妙なところですが、被告の写真も、スイカのみずみずしさを強調するための配置や構図、スイカの切り方、並べ方が重要な部分で一致していると評価できます。
このように考えたのが控訴審であり、原告の写真の撮り方は誰でも容易に思いつく範囲内のものだと考えれば、地裁のように類似性を否定する結論になるでしょう。
皆様は、上の2つの写真、類似性があると思われるでしょうか?
*著者:弁護士 星野宏明(星野法律事務所。顧問法務、不動産、太陽光自然エネルギー、中 国法務、農業、不貞による慰謝料、外国人の離婚事件等が専門。)
※画像は裁判所:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/428/012428_option1.pdf より引用