「某元グラビアアイドルに懲役1年6月の実刑判決」、「○○被告に禁錮1年執行猶予3年」……。
このように、「懲役」や「禁錮」という言葉は、報道等でも目にする言葉だと思います。この2つの言葉に、どういった違いがあるか皆さんはご存知でしょうか。
何となく、「どちらも刑務所に入るんだろうな」、というイメージはあるかもしれませんが、具体的に何が違うかを知っている方は意外と少ないかもしれません。
●「懲役」の意味
まずは、法律の条文上の違いを見てみましょう。懲役は、刑法第12条に規定がありますが、同条2項は、「懲役は、刑事施設に拘置して所定の作業を行わせる。」となっています。
つまり、懲役刑を受ける受刑者は、刑事施設において刑務作業を行うことが義務付けられています。
●「禁錮」の意味
一方、禁錮については刑法第13条に規定がありますが、同条2項には、「禁錮は、刑事施設に拘置する。」としか書かれていません。つまり、刑務作業を義務付けられていないということです。これが、懲役刑と禁錮刑の最も大きな違いということになります。
このように、懲役刑の場合は刑務作業を行い、禁錮刑の場合は行わないという違いがあります。ただし、禁錮刑により受刑している人であっても、希望すれば、刑務作業を行うことは可能です。
実際、ほとんどの禁錮刑受刑者は、刑務作業を行っていると言われています。一日中じっとしているより、刑務作業をしていた方が楽という感覚なのでしょうか。そうなってくると、懲役刑と禁錮刑の実質的な違いはあまりないように思えます。
このように、あまり違いが無い懲役刑と禁錮刑ですが、なぜこういった2つの刑罰が存在するかという点について触れます。
●なぜ「懲役」と「禁錮」2つの刑罰があるのか
元々禁錮刑は、政治犯罪人を政治的報復、屈服的強制から守るという趣旨で、一般犯罪人とは異なった処遇として確立されたという歴史があります。
つまり、政治的思想に基づいて行った犯罪に対して、その攻撃対象であった国家により強制的な労働に服させるということは屈辱的であろうという配慮があったというわけです。
典型的な例としては、内乱罪の関連では死刑の他は禁錮刑が法定されています。その名残からか、公務執行妨害罪においては、懲役刑、禁錮刑、罰金刑が選択可能とされています。
また、少し別の視点から、非破廉恥罪(道徳的な非難がしにくい犯罪類型)といわれる過失犯についても、禁錮刑のみ、もしくは懲役刑と禁錮刑が選択できる形になっています。故意犯(わざと犯罪を行う場合)と比べて、非難しにくいことから、懲役刑ではなく禁錮刑を適用できるようにしているわけです。
●刑の重さに違いはある?
ところで、素朴な疑問として「懲役刑と禁錮刑、どっちが重いのか」というところも気になりませんか?
法律上、より重い刑とされているのは、懲役刑です(刑法第9条、同第10条1項本文)。
もっとも、無期禁錮と有期懲役の場合は無期禁錮の方が重く、また、有期懲役と有期禁錮の場合であっても、長期が2倍を超える場合は有期禁錮の方が重い刑であるとされています。
*著者:弁護士 河野晃 (水田法律相談所。兵庫県姫路市にて活動しております。弁護士生活5年目を迎えた若手(のつもり)弁護士です。弁護士というと敷居が高いと思われがちな職種ですが、お気軽にご相談していただけるような存在になりたいと思っています)