「FC2動画」の実質的運営者を逮捕したというニュースが騒がれています。
報道によると、FC2動画で性行為をライブ配信した男性と共謀してわいせつな動画を不特定多数に閲覧可能な状態にした疑い(公然わいせつ)で逮捕された、ということのようです。
報道では、性行為ライブ配信を「犯罪のインフラ」などとするものもあるようですが、この件はどのような結末を迎えるのでしょうか。
インターネット事案の犯罪についての難しさを解説してみたいと思います。
●FC2は全ての動画をチェックする義務はない
たしかに、FC2というインフラがなければ、その男性が公然わいせつを行うことはできなかったでしょう。また、視聴料の一部を手数料として利益を得ていたという関係もあるでしょう。
しかし、それだけで果たして罪に問えるのでしょうか。
意外に思う方も多いと思いますが、掲示板や動画投稿サイトなどの運営者・管理人が、投稿された内容を常に監視している義務はないとされます。
「運営者・管理人である以上、常に監視しているべきだ」と思いたいところですが、膨大な量の投稿を逐一チェックすることは事実上不可能です。法は不可能を強いないというのも重要な考え方であり、このような事実上不可能なことを運営者・管理者に課すことはできません。
したがって、不適切な動画などがアップされたり配信されたとしても、それだけで運営者・管理者が責任を問われることは、通常ないのです。
●しっかり削除を行えば問題はない
運営者・管理者としては、不適切な動画などがあるということの通知を受けたときに、合理的な時間内に内容をチェックして、不適切と考えれば削除などの措置を取ればよいということになります。
今回の件はライブ配信が問題となっているようですので、そもそもそれを止めるだけの情報提供があったのか、またあったとしても止められる程度の時間的余裕があったのかという点は、かなり気になるところです。
個人的には、これは難しいのではないかと考えます。
インフラを提供したから問題だという指摘もあると思いますが、違法でない動画も多数あるだろうと思われます。インフラを提供していたから責任を問うということは、たとえば自動車で人を轢き殺してしまったから、自動車を作った人物も罪に問え、というくらいの暴論です。
したがって、このような指摘は感情論としかいえないのではないでしょうか。
●逮捕はしたが、今後どうなるかは分からない?
性行為をライブ配信した男性と共謀した疑いということなので、今後は、どのような認識をもっていたのかということが重要な捜査のポイントになるはずです。
「共謀」があったという点については、「人気の高い動画投稿者に投稿を促すメールを送っていた」という報道もあります。
しかし、人気の高い動画投稿者に投稿を促すメールを送っていたとしても、それだけで違法動画の投稿を促していることには、当然なりません。「共謀」といえるには、違法な動画をたびたび流していたということを理解していたことまで必要でしょう。
また、その判断の前提として、違法動画に関する通知がどのくらいあったのか、違法な動画であるとの通知をどのように処理していたのかといった点などを検証していく必要もあります。
このように、逮捕をしたといっても今後どのようになるかという観点からすると、乗り越えるべき課題は多いのではないかというのが率直な印象です。
●実質的運営者が逮捕された意味は大きい
ちなみに、FC2は海外企業である以上、FC2のサービスを使用している人物から名誉を毀損されたという場合、削除や犯人を特定するための裁判を、海外企業であるFC2に起こす必要がありました。
実質的経営者が逮捕されたということになると、その人物に対して裁判を起こしていくことは、今後は可能になる可能性もあります。
その意味では、法的措置のハードルが下がるかもしれないと思ったりもします。
*著者:弁護士 清水陽平(法律事務所アルシエン。インターネット上でされる誹謗中傷への対策、炎上対策のほか、名誉・プライバシー関連訴訟などに対応。)
*画像はFc2ライブのスクリーンショットにぼかしを施したもの