過去に、内定取消が社会問題化したことがありました。
記憶に新しいところだと、某テレビ局に採用が内定していたアナウンサー志望の女性が、会社から内定取消を受けたというケースがありました(その後、女性が原告となって内定取消の違法性を争って裁判をした結果、会社との間で和解が成立し、現在は正社員として勤務しているようです)。
それでは、内定取消は会社の都合で自由にすることができるのでしょうか。今回は、採用内定の法的性質や内定取消の適法性について説明したいと思います。
●そもそも「内定」ってどんなもの?
まず、採用内定とは、法律的には、解約留保権付きの労働契約とされています。
具体的には、会社からの採用内定通知書や内定者からの誓約書に記載されている採用内定取消事由が生じた場合には労働契約を解約できる旨の合意、あるいは、卒業できなかった場合にも当然に解約できるという内容の労働契約が、会社と内定者との間で成立していることになります(菅野和夫・労働法〔第10版〕より)。
採用内定が解約留保権付きの労働契約だとすると、採用内定取消しの適法性は、留保解約権の行使が適法か否かという点が問題になります。
●内定通知書に書かれているからと言って、勝手に取り消して良いわけではない
内定取消の適法性は、採用内定通知者や誓約書に記載された取消事由を参考に判断されますが、取消事由があれば、内定取消が当然に適法になるというわけではありません。
すなわち、取消事由として適法になるのは、解約留保権の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるものに限られることになります(最判昭和54年7月20日民集33巻5号582頁)。
そのため、会社の都合で自由に内定取消をすることができるわけではなく、客観的に合理的で社会通念上相当な事由が発生した場合にのみ内定取消が適法になるということです。
●経歴詐称は取り消しの理由になる?
よく問題になるのは、採用内定通知書や誓約書への虚偽記入(経歴詐称)が取消事由になるのかというものです。
この点に関して、裁判例では、誓約書等に虚偽記入をした場合、それが形式的には取消事由に該当する場合でも無条件に内定取消が認められるわけではなく、虚偽記入の内容や程度が重大なもので、それによって従業員としての不適格性や不信義性が判明したことを要するとされています(横浜地判昭和49年6月19日判時744号29頁)。
*著者:弁護士 理崎智英(高島総合法律事務所。離婚、男女問題、遺産相続、借金問題(破産、民事再生等)を多数取り扱っている。)