4月に入り、今年もまた新入社員の姿を見るようになりました。
この時期は新入社員に限らず転職した人も多くいる季節ですが、大多数の企業では採用の際に3か月程度の試用期間が設けられていることがほとんどです。
この試用期間とは法律上どんなものなのでしょうか?企業は試用期間中の雇用関係を簡単に打ち切ることができるのかなど、色々と気にしている方も多いでしょう。
今回は試用期間はとはどのようなものなのかについて解説していきたいと思います。4月から入社し、試用期間を経験する人は覚えておくと良いかもしれません。
●試用期間中でも正社員
試用期間が設けられているからといって本採用後の雇用契約と別の契約となるわけではなく、試用期間中の解約権が認められている「解約権留保付雇用契約」とされています。
したがって、試用期間中でも正社員の地位にあることは変わりません。
●企業は試用期間中であれば自由に解雇できるの?
「解約権留保付雇用契約」ということは、会社は試用期間であれば自由に解約権を行使して従業員を解雇できるかというとそうではありません。
たしかに、解約権行使については通常の解雇よりも広い範囲で企業の解雇の自由が認められているとはされています。
しかし、判例は、解約権行使ができる場合について、
「企業が、採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において、そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇用しておくのが適当でないと判断することが、解約権留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当であると認められる場合」
との基準を示しています。
つまり、「採用後に分かった問題や事実によって、今後も雇い続けることが難しい理由がある場合は解雇できる。」ということです。試用期間中の解雇であっても解雇理由に当たる具体的な根拠と解雇の判断の妥当性を要求しています。
したがって、企業は、試用期間中であれば従業員を自由に解雇できるわけではなく、(1)「試用期間中に○○と認めた場合には解雇する」と定めた就業規則と、(2)客観的合理的かつ具体的な解雇理由が必要となります。
具体的に試用期間中の解雇が認められるケースとしては、従業員に(1)能力不足・健康不良・経歴詐称、(2)出勤状況・勤務成績不良、(3)業務命令違反等の業務成績不良がある場合などです。
なお、試用期間であっても14日間を超えて勤務している場合は、通常の解雇と同様に解雇予告手当を支給しなければなりません。
●中途採用の場合はちょっと違う
以上は基本的に新入社員の場合を想定していますが、一定水準の能力を前提とする転職者の中途採用の場合については、やや広く解約権行使が認められる傾向にあります。
もっとも、この場合でも客観的合理的かつ具体的な解雇理由が必要となることはもちろんですし、何らの指導もしないまま能力不足・業務不適格を理由とする解雇は認められない可能性もあります。
企業側としては勤務条件の明示及び一定の指導監督をすることを心がけること、従業員側としては試用期間中であっても突然解雇された場合には争う余地があることを知っておくことがポイントになります。
*著者:弁護士 木川雅博 (星野法律事務所。通信会社法務・安全衛生部門勤務を経て、星野法律事務所に所属。破産・再生・債務整理を得意とする。趣味は料理、ランニング。)