入居を希望した京都市のアパートが「外国人不可」のため、賃貸契約できなかった欧州出身の20代の留学生が、法務省の京都地方法務局に外国人差別だとして救済措置を求めました。
しかし、法務局は「人権侵犯の事実があったとまでは判断できない」と退けたということです。これに対し、ネットでは、外国人差別であり法務局の態度はおかしいという論調が流れました。
しかし、法的に見ると、単純に「差別だ!」と言えない問題があります。今回はこの問題について解説していきます。
●憲法に反するケースも
もし、アパートの経営者が京都市だったり公団だった場合は、明白に憲法14条に違反すると思います。
憲法14条1項は、「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」と規定していて、この国民に外国人も含まれることは通説判例だからです。
●一般人がオーナーだとどうなる?
しかし、一般人がアパートのオーナーだった場合は、憲法14条違反と簡単には言えません。
オーナーは自分のアパートを誰に貸すか自由に決めて良いからです。憲法22条の営業の自由の範囲内と解釈されます。」すると、外国人留学生が有する憲法14条に基づく平等権という人権とオーナーの営業の自由という人権とがぶつかることになります。
このように人権と人権が背反するとき、どのように考えるべきかは論者によって異なります。最終的には、双方の利益不利益を勘案して区別に合理性があるか否かで決めるしかないと思います。
●お店の「外国人お断り」で訴えられたケースも
外国人の万引き被害が多いとして、ある宝石店が外国人お断りという張り紙を貼ったところ、その宝石店が慰謝料を支払わされた事案があります。
宝石店にも営業の自由がありますから誰に売るかは自由に決めて良いはずですが、外国人を一律に排除することに合理性がないと判断されたものです。
顔に入れ墨をする民族がいますが、その顔の入れ墨を理由に入場を断った温泉施設が非難されたこともあります。暴力団や不良少年の入れ墨と同じように扱う合理性がないと判断されたものです。
今回の件もオーナーが大企業であったとすれば、外国人を入居させないことは人権侵害だとして法務局が指導していたと思われます。
●単純に「差別だ!」とは判断してはいけない
法務局はオーナーのプライバシーがあるので詳細を明らかにしていませんが、多分、オーナーは一般人だっと思われます。一般人が外国人の入居を断ったのは仕方がないと法務局は判断したものと思われます。
あるいは、オーナーが入居者の面接をした際に入居者が失礼な態度を取ったのかも知れません。
このように、私人間の憲法問題は非常にデリケートな判断が必要です。外国人という言葉が出てくるとそれだけで差別だと条件反射するのは間違いです。
法務局はプライバシーに配慮して詳細を明らかにしませんでしたが、出来れば個人が特定できない範囲でオーナーの属性を明らかにするとか、人権侵害を認定しなかった理由を説明してほしいです。
このようなニュースが流れると日本が人権後進国だという誤解が生じる可能性があるからです。
*著者:弁護士 星正秀(星法律事務所。離婚、相続などの家事事件や不動産、貸金などの一般的な民事事件を中心に、刑事事件や会社の顧問などもこなす。)