先日、母親が14歳の中学生をベランダに閉めだし、その後、その中学生が6階から転落するという何とも痛ましい事件が起こりました。
母親は取り調べに対し、「家を出る前に息子をベランダに閉め出した。」と話しているようですが、落下した原因などについては詳細はわかっていません。ネット上では母親に対して非難の声があがっていますが、法的には母親が何らかの罪に問われることはあるのでしょうか?
現状、報じられている内容のみでの判断になりますが、どのような罪が問われる可能性があるのかについて解説します。
●監禁罪になる?
まず、ベランダに閉めだした時点で監禁罪が成立します。
なんとなく監禁というと室内に閉じ込める行為を想像しがちですが、監禁とは一定の場所からの脱出を不可能にすることを指しますので、室内に限らず、脱出が困難な状況であれば監禁罪は成立します。
それゆえ、本件のベランダであっても問題なく監禁罪は成立します。
もっとも、子供のしつけということで物置や押し入れに閉じ込めたりするということはありますので、今回の件がしつけの範囲ということであれば監禁罪は成立しない可能性があります。
しかしながら、しつけの範囲内として許容されるのはあくまで短時間の閉じ込めに限られるでしょう。本件のようにベランダに閉めだした後に母親が外出しているというような場合は相当長時間となることが予想されますので、今回のケースでは監禁罪が成立するのはまず間違いないものと思われます。
●監禁致傷罪になる?
次に、子供が転落してケガを負ったことで、監禁致傷罪が成立するかです。
確かに中学生であれば、6階から転落すればどうなるのかは十分理解できるでしょうから、道徳的な問題は別として、法的に転落についてまで親に責任を負わせることはできないのではないかという考え方もあるものと思われます。このあたりはどうなるのでしょうか。
転落したらどうなるかは理解できるのでしょうが、ただ、その中学生は、例えば隣の家のベランダに移ろうとした際に転落したとか、雨どいを伝って地上まで降りようとした際に転落したなどというように、脱出をしようとして転落した可能性も否定できません。
判例でも、走行中の自動車から転落した場合に、監禁致傷罪の成立を認めたものがあります。詳細がわからないので断言はできませんが、少なくとも、中学生だから転落すればどうなるのかわかっていたという理由では、本罪の成立を否定することはできないでしょう。
●殺人になる?
さらに一歩進んで殺人罪まで成立するかどうかです。客観的には間接的な殺人行為とも言えなくはありません。ただ、さすがに母親に殺意まではないと思いますし、仮に死ねばいいと思っていても、100%転落するかどうかは予想できないでしょうから、さすがに殺人罪は成立しないと思われます。
どのような経緯でベランダに閉じ込められたのかはわかりませんが、なんともやりきれない感じがします。今後は司法での判断に移るものと思われますが、どのような判断が下されるのか、しっかりと確認したいと思います。
*著者:弁護士 山口政貴(神楽坂中央法律事務所。サラリーマン経験後、弁護士に。借金問題や消費者被害等、社会的弱者や消費者側の事件のエキスパート。)