群馬県の男性職員が、県庁内のパソコンを使ってアダルト動画のファイル編集をしていたとして、停職15日の懲戒処分を下されました。
この県職員は、職務時間中に約8か月間、一日30分程度このアダルト動画ファイルの整理や編集を行っていたようです。
「よくもまあそんなにたくさんのアダルト動画を集めたな~」というのが率直な感想なのですが、今回は、この「一日30分程度」の職務専念義務違反に対して、「15日の停職処分」が下されたという点にフォーカスをしてみたいと思います。
●公務員は法律で「全力で仕事しろ」と決められている
まず、県職員のような地方公務員や国家公務員は、全体の奉仕者として公共利益のために勤務し、かつ全力で職務の遂行に専念しなければいけません。
国家公務員法101条1項前段には、「職員は、法律又は命令の定める場合を除いては、その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、政府がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない。」と定められています。
また、地方公務員法35条には、「職員は、法律又は条例に特別の定がある場合を除く外、その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、当該地方公共団体がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない。」と定められています。このような公務員に課された義務を「職務専念義務」といいます。上述の県職員はこの義務に違反したとして懲戒処分を受けたようです。
●公務員の処分は4種類
公務員の懲戒処分には、法律上、戒告、減給、停職、免職の4つの処分が明記されています。
戒告が最も軽い処分で免職が最も重い処分ですので、停職は上から2番目に重い処分ということになります。これら懲戒処分を決定するに際しては、誰かが独断的に決めるのではなく、一定の指針があります。
それは、(1)非違行為の動機、態様、結果等、(2)故意又は過失の度合い、(3)非違行為を行った職員の職責及び職責と非違行為の関連性、(4)他の職員や社会に与える影響、(5)過去における非違行為の有無等の他、日ごろの勤務態度や非違行為後の対応等を総合的に考慮するというものです。
本件では具体的な態様や日ごろの勤務態度等は不明ですが、約8か月間という長期間である点と上記(4)「他の職員や社会に与える影響」を重く見て比較的重い処分が下されたのではないかと推測されます。
同じ部署で真面目に働く同僚からしてもガッカリ感は否めませんし、何よりやっていたことが「アダルト動画のファイル整理」という卑わいな内容だったので、世論としても同情の余地は無く、公務員に対する信頼低下という社会に与える悪影響も大きいと判断されたのではないかと思います。
●減給ではなく停職15日になった理由
なお、「約8か月間毎日30分サボった」ということは、一日の勤務時間が8時間であるとすると、「半月間毎日一日丸々(8時間)サボり続けた」ことと時間としては同じ意味になります。
本件で下された処分は「15日間の停職(もちろんその間無給)」という内容ですが、このことと無関係ではないかも知れません。ただ、「減給」ではなく、「停職」という重い処分が下されたのには、それなりの理由があるのではないかと思われます。
●1日30分喫煙していてもアウト?
では、本件と同じく「一日30分」職務専念義務に違反した場合、本件と全く同じ処分が下るかと言われれば必ずしもそうではありません。
例えば、ネットサーフィンに一日30分程度興じる場合や、喫煙者が一日30分程度勤務時間内に席を外すという場合もあるかもしれません。
もちろん、これらも職務専念義務違反ですので懲戒処分の対象になり得ます。想定しづらい話ですが、仮に義務違反の内容以外が全く同じ条件だったとすれば、基本的にはこれに近い懲戒処分が下されることになるでしょう。
ただし、本件の「アダルト動画のファイル整理」という内容に比べれば、あくまでも個人的な見解ですが、まだ幾分同情の余地があるように思われますので、本件よりは軽い処分になる可能性もあると思います。
最後に、行政庁が下した懲戒処分の正否について一言だけ。どういった懲戒処分を下すかについては行政庁に裁量があります。したがって、処分後に裁判等で処分を覆すのは決して容易ではありません。
*著者:弁護士 河野晃 (水田法律相談所。兵庫県姫路市にて活動しております。弁護士生活5年目を迎えた若手(のつもり)弁護士です。弁護士というと敷居が高いと思われがちな職種ですが、お気軽にご相談していただけるような存在になりたいと思っています)