皆さんは「電子印鑑」を使用した事がありますか?
請求書や見積書などのPDFデータ、Wordデータなどに、ハンコが押してある(印影が貼り付けられている)場合があります。一般的に、このようなハンコ(印影)は「電子印鑑」などと呼ばれ、ここ数年で広がりを見せています。
従来行っていた、印刷した紙に実物の印鑑を押し、郵送などをしていた方法に比べ、PC上だけで全てのやりとりが行える点がメリットとなっています。しかし、パソコン上でハンコ(の印影)を貼り付けただけのものに、法的効力があるのでしょうか。
そもそも普通の印鑑の法的効力どうのようになっているのかも含めて、解説していきます。
■印鑑が必須なものは少ない
「文書に印鑑が押されていないと、正式な文書として効力がない」と考えている人が多いですが、印鑑が押されていないと法的効力がないということは、基本的にはないです。
書面を作成するということは、その書面の内容の約束をしたとか、意思を表示したということを明確にしておくという趣旨です。簡単に言ってしまえば、後から「そんなことは言っていない」という言い逃れをさせないために作るものです。
そのため、契約などは書面がなくても成立するとされているものが多いです。そして、書面がなければ押印もできない以上、印鑑が押されてるということは、法的効力とは基本的には関係ないということが理解できると思います。
■押印の効力は?
では、なぜ印鑑を押すのかというと、「慣習」というのが一番大きな理由です。
押印がなくても法的効力が変わらないとしても、印鑑が本人しか持っていない以上、本人がきちんと意思を表示したのだということが判断できたり、交渉段階の文書ではなく最終的に合意した文書であるということが明らかにしやすい、といった事実上の意味があります。
そのため、押印をするのが通常の実務における扱いといえるでしょう。
■電子印鑑の意味は?
印鑑はこのような役割を果たすだけなので、これは電子印鑑にも当てはまるでしょう。
一般的に使われる「電子印鑑」は、法的には意味がありません。そのため、印影の有無にかかわらず、その文書の内容にどのようなことが書いてあるのかどうかだけで判断すればよいということになります。
ちなみに、「電子署名及び認証業務に関する法律」により、「電子署名」が規定されています。電子署名を利用するには、認証事業者(電子署名法の概要と認定制度について)から電子証明書を発行してもらうことが必要です。
これは、一般的に使われている「電子印鑑」とは別物です。
■電子印鑑のリスク
一般的な「電子印鑑」は印影をスキャンするなどして作成した画像を貼り付けているだけです。そして、受け取る側も電子データで受け取るわけなので、その印影をコピーすることは容易です。
したがって、印影の偽造やなりすましをされるリスクがあるということになります。ただし、これは普通に押された印鑑であっても同じなので、電子印鑑特有のリスクとまでは言えないでしょう。
ただ、普通の印鑑に比べてかなり容易にコピーが可能となっている点は、頭の隅に置いておいた方が良いかもしれません。
*著者:弁護士 清水陽平(法律事務所アルシエン。インターネット上でされる誹謗中傷への対策、炎上対策のほか、名誉・プライバシー関連訴訟などに対応。)