無許可で客にダンスをさせたとして風俗営業法違反罪に問われた大阪のクラブの元経営者に対する控訴審が行われ、一審に引き続き無罪となりました。
「無許可で客にダンス」と聞いても「何が悪いの?」と思うかもしれません。風営法ではなぜダンスを規制したのでしょうか?
風営法は、善良な風俗と清浄な風俗環境や少年の健全な育成環境を守るために定められています。しかし、善良な風俗と言っても時代と場所によって変わりますし、その具体的な中身については、議論のあるところです。
●ダンス営業に関する平成24年11月現在の警察庁の公式見解
そもそも風営法第2条第1項第4号において「ダンスホールその他設備を設けて客にダンスをさせる営業」(以下「4号営業」という。)を風俗営業として掲げ、これに所要の規制をしているのは、このような営業は、その行われ方によっては、男女間の享楽的雰囲気が過度にわたり、善良の風俗と清浄な風俗環境を害し、又は少年の健全な育成に障害を及ぼすおそれがあるからです。
したがって、社交ダンスに代表されるような男女がペアとなって踊ることが通常の形態とされているダンスを客にさせる営業は、その性質上、男女間の享楽的雰囲気が過度にわたる可能性があり、4号営業として規制対象となりますが、一方、ヒップホップダンスや盆踊りなど、男女がペアとなって踊ることが通常の形態とされていないダンスを客にさせる営業は、それだけでは、男女間の享楽的雰囲気が過度にわたる可能性があるとは言い難く、現実に風俗上の問題等が生じている実態も認められないことから、原則として4号営業として規制対象とする扱いをしていません(ただし、このようなダンスを客にさせる営業であっても、例えば、ダンスをさせるための営業所の部分の床面積がダンスの参加者数に比して著しく狭く、密集してダンスをさせるものなど、男女間の享楽的雰囲気が過度にわたる可能性があるものについては、4号営業として規制対象となり得ます。)。
つまり、ダンス営業に関しては、男女間の享楽的雰囲気が過度にわたる可能性があるか否かが風営法適用の有無をわけることになります。
●社交ダンスもダメだった
かつては、社交ダンス教室も風営法の規制を受けました。社交ダンス教室で会っても、男女の享楽的雰囲気が過度であると警察庁が判断していたのでしょう。
しかし、映画「Shall weダンス」に始まる社交ダンスブームに伴い愛好者や関連団体の努力があり、1998年に規制除外になりました。しかし、飲食店で社交ダンスをさせるような場合は、いまでも規制対象です。
●今回、無罪となった理由
今現在、クラブやディスコが取り締まりの対象とされています。しかし、男女がペアにならず、勝手に踊るような場合は、男女間の享楽的雰囲気が過度となる可能性がないので、取り締まりの対象となりません。
大阪の裁判では、「客同士が体を触れ合わせて踊る状態ではなかった」と認定し、男女間の享楽的雰囲気が過度となる可能性がなかったと判断し、無罪を言い渡しています。しかし、そのクラブがいつも混んでいて、「客同士が体を触れ合わせて踊る状態であった」ならば、風営法に違反した可能性があることになります。
*著者:弁護士星正秀(星法律事務所。離婚、相続などの家事事件や不動産、貸金などの一般的な民事事件を中心に、刑事事件や会社の顧問などもこなす。)