一般的なイメージの詐欺は、ありもしないことを話し、相手をだましてお金をもらったことだといわれることが多いのではないかと思います。
法律的にみてもその通りなのですが、最近こんなニュースがありました。
コンビニで約1万3000円の買い物をした男性が1万5000円を支払ったところ、6万円を受け取ったと勘違いした店員が約4万6000円の釣り銭を返し、金額が間違っていることに気づきながらも受け取った男性が詐欺罪で逮捕されたというものです。
詐欺罪についてもう少し立ち入って考えてみると、詐欺罪が成立するためには、相手をだます行為、その行為により相手が勘違いをして、その勘違いに基づいてお金などの財物を渡すという一連の流れが必要となります。
ここでいう相手をだます行為については、積極的に嘘を述べてだます行為はもちろんのこと、本当のことをあえて黙っているような場合も含むものと考えられています。
それでは、今回のケースについて詳しく解説していきます。
●黙っていることにより相手を騙している
今回、問題となっているいわゆる釣り銭詐欺は、相手が多くおつりを渡していることに気づきながらもそれをそのまま受け取るものであり、まさしく本当のことを黙っていたものです。
この「本当のことを告げなかった」ことが、先に述べた積極的にだます行為と同様のものであると考え、詐欺罪の成立が認められるのです。
●多く貰っていることに気づいていなかった場合
それでは、釣り銭が多いことに全く気付いていなかった場合はどうなるのでしょうか。
どの段階で気付いたのかという細かい問題があるのですが、ここでは細かい問題には立ち入らずに考えてみます。
例えば、釣り銭を渡されたのち、家に帰ってから気付いた場合、詐欺罪が成立するのでしょうか。
結論から言えば詐欺罪とはなりません(もっとも、別途占有離脱物横領罪が成立する余地がありますが、ここでは立ち入らずに説明します)。
そもそも「告げなかった」ことがだます行為と同様のものであると考えられるのは、おつりが多いことに気付いているからこそ告げなければならないといえるからです。そうすると、気付いていないのであれば告知義務は生じないはずですし、義務がないからそれに反することもないのです。
そのため、家に帰った段階でおつりが多いことに気付き、これを自分のものにしたとしても詐欺罪とはならないのです。
●当時のことを覚えていない場合
一方で、覚えていなかったというのはどうなるのでしょうか。
覚えていないというのは、現在の時点で当時のことがわからないというだけであって、当時は、自分でおつりが多いことを認識していたといえるのであれば、犯罪は成立します。
この判断は、客観的な状況によりなされます。今回のケースでは、防犯カメラの映像や、店員の証言などから、釣り銭が多いことに気付いていたかどうかを判断することになるでしょう。
最後に従業員のペナルティですが、法律的に言えば、雇用契約上、お店に生じた損害を賠償するような条項が記載されていればその契約に従って損害賠償義務を負うことがあるかもしれません。
または、不法行為責任に基づく損害賠償請求がされることもあるかもしれません。もっとも、現実的にはそのような措置が講じられることは少ないと思います。
*著者:弁護士 山口政貴(神楽坂中央法律事務所。サラリーマン経験後、弁護士に。借金問題や消費者被害等、社会的弱者や消費者側の事件のエキスパート。)