URLにアクセスすると自動で110番通報するウイルスを作成し、無料通話アプリLINEで拡散したとして、高校生らが不正指令電磁的記録作成罪で書類送検されたと報じられています。
勝手に110番というと軽いイタズラのような気がするかもしれませんが、れっきとした犯罪行為です。しかも、ウイルスによるスマホの予期しない作動により、実際に7500件あまりの110番通報がされたようです。
それでは、今回、高校生らが罪に問われた不正指令電磁的記録作成罪とはどのような罪しょうか。
■通称は「ウイルス作成罪」
不正指令電磁的記録作成罪(刑法168条の2)は、通称ウイルス作成罪と呼ばれ、正当な理由がないのに、コンピュータに意図に沿う動作をさせなかったり、意図に反する動作をさせる不正な指令を与えるものを作成することを罪としています。
今回の件では、スマートフォンから自動的に110番通報がされるプログラムが作られたようですし、動機は「いたずら感覚でやった。周囲を驚かせたかった」というもののようなので、ウイルス対策のためにウイルスを作成するような場合と異なり、「正当な理由」があるともいえないため、特に問題なくウイルス作成罪に当たると思われます。
この罪の第1号有罪判決事案とされているのは、自分が運営する掲示板に「おまえはいつでも殺せる」という脅迫文を書き込ませるウイルスを作成し、知人らにウイルス感染させ、自分が脅かされたかのように見せかけた2012年の事案です。
ウイルス作成罪は3年以下の懲役又は50万円以下の罰金となっていますが、この事案では悪質性が高いとして懲役3年が課せられたようです。
本件でも、7500件あまりの110番通報がされ、必要な人が110番通報ができなかったり、通報が遅くなるなどした事例もあったかもしれません。その意味で、悪質性が低いとはいえないのではないでしょうか。
■未成年者には少年法の適用
ただし、書類送検されたのは高校生ら未成年者のため、少年事件として家庭裁判所の審判を受けることになります。
その後、事件の内容や本人の性格、心身の成熟度等を考慮して、刑罰を科すのが相当と判断されれば、事件を検察官に送致する(これを一般的に「逆送」といいます)ことになります。
本件は悪質性はあるとしても、いたずら感覚、周囲を驚かせたい、といった単純な動機であり、刑罰を科すのが相当とまでは言えないと思います。
そのため、上記ような罪を受けることまでは行かないと想定されます。
*著者:弁護士 清水陽平(法律事務所アルシエン。インターネット上でされる誹謗中傷への対策、炎上対策のほか、名誉・プライバシー関連訴訟などに対応。)