大手旅行代理店「JTB」が、会社からのお願いとして、社員に対して特定の政党に選挙協力をお願いするメールを送ったことが明らかとなり波紋を広げています。
報じられたメールの内容を要約すると、以下のようになります。
「JTBを多く利用して頂いている創価学会から、公明党へ対する選挙協力要請がありました。会社としても営業政策上、協力をした方が良いと思うので、社員の皆様、できるだけご協力お願いします。」
選挙においては「公職選挙法」で厳しく様々なルールが決められていますが、このように特定の政党や宗教への応援を会社が社員に対して協力を仰ぐことに違法性はないのでしょうか?
■基本的には適法
任意の協力を求める範囲にとどまる限りでは、違法とはならないでしょう。
報じられている内容を見ると、今回の会社の目的は、常連顧客からの支援要請という「営業政策上の観点」からのものであり、そもそも、会社側にも無条件で特定宗教や政党を支援する意図はないことが伺えます。
また、任意の支援要請が社員全員に断られても、企業が政党に献金する形で最も大きな形で支援することもできますので、会社側には事実上社員に強制してまで支援協力させる動機もないものと考えらえます。
政治献金という形で正面から特定政党を直接支援することも会社には認められている現行法から考えると、任意の形で、それも常連顧客からの支援要請という営業政策上の観点から行った今回の要請は、基本的に適法といえます。
■強制はできない
もちろん、政治的意思の自由も投票活動の自由も民主主義の根幹をなす権利として憲法上最も厚く保障されていますので、特定政党への支援の性質をもつ活動を社員に強制することは違法です。
例えば、支援要請に従わなかった社員を事後的に減給・降格したり、転勤・異動させるといった不利益を与えるような場合には、投票の自由の侵害、特定政党支援の強制があったものとして違法と評価されることもあるでしょう。
今回は、支援要請に従わない社員に対し、特段不利益を課しておらず、あくまで社員個人としての任意協力であることも強調していますので、強制とまでは評価できないように思います。
■プライバシーの問題はある
強制しない場合でも、例えば、会社からの支援要請を受け入れて協力した人とそうでない人を社内や部署内で容易にわかるように公表してしまうことも、違法となる可能性があります。
支持政党や政治的思想信条は、個人の病歴や身体的特徴と並んでプライバシーの中でも特に他人に知られたくない性質を有しており、これを正当な理由なく社内で公にすることはプライバシーの侵害として、慰謝料請求の対象となります。
*著者:弁護士 星野宏明(星野法律事務所。不貞による慰謝料請求、外国人の離婚事件、国際案件、中国法務、中小企業の法律相談、ペット訴訟等が専門。)
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