本屋で本を撮影する行為は「デジタル万引き」などと言われます。
写真に撮ってしまえば、本の内容をそのまま持ち帰ることができますが、本をそのまま持ち去るのととても似ているため、このように言われています。
つまり、本を買わなくとも、本の内容はデジカメやスマホなどで閲覧可能になってしまい、お店としては商売あがったりとなってしまう行為という訳です。勝手に情報を持ち出すこれらの行為はもちろん違法と思うかもしれませんが、実は撮影して持ち出すこと自体は違法行為ではないのです。
今回は、なぜ、「デジタル万引き」が違法行為にならないのかの解説をします。
■窃盗罪の対象は「有体物」
万引きは「窃盗罪」というれっきとした犯罪であり、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金とされています。
デジタル万引きも万引きである以上、これが適用されるようにも思えるかもしれませんが、窃盗罪が成立するためには「財物」を窃取する必要があるとされます。そして、財物とは有体物、つまり形があるものを指します(なお、「電気」は無体物ですが、例外的に「財物」に当たると規定されています。)。
デジタル万引きは写真に撮影しているだけであり、画像データとして記録されるものの、財物である「本」それ自体を窃取するわけではありません。
したがって、窃盗罪が成立することはありません。
■勝手に複製するから著作権法違反?
しかし、本の内容を勝手に撮影するということは、他人の著作物を許可なく複製する行為であるといえます。そこで、著作権法違反が成立しないでしょうか。
著作権法は、私的利用のための複製については著作権者の許諾なくすることができるとしています。
デジタル万引きは、基本的には自分が読みたいから撮影しているのではないかと思われ、基本的に私的複製として許されることになります(購入してない本であるため、若干疑義が残らないではないですが。)。
ただし、撮影したものをインターネット上に公開したり、配信したりしている場合は、私的複製の範囲を超えるため著作権法違反となります。
■建造物侵入罪が成立する?
このように、なかなか違法とは言えないケースも多いのですが、本屋はデジタル万引きを禁止しているところが多いです。本屋からすれば本が売れなくなることになるため、当然のことです。
本屋からすればデジタル万引きを目的で来店するような人物は「客」とは呼べません。そのような不当な目的であることを知っていれば、本屋としては入店を断るはずです。
そのため、理論的には、デジタル万引き目的で本屋内に入った場合、建造物侵入罪が成立する余地があるのではないかと思います。
*著者:弁護士 清水陽平(法律事務所アルシエン。インターネット上でされる誹謗中傷への対策、炎上対策のほか、名誉・プライバシー関連訴訟などに対応。)