洋の東西を問わず古くから存在する「呪いの儀式」。
日本で有名なものでは、藁人形にくぎを打つ、丑の刻参りといった儀式があります。世界中でも古くから呪いは信じられ、数多くの呪いの儀式があるようです。
もし、儀式の直後に、呪われた人が死亡したりケガをするなどの変化があったら、因果関係を信じる人もいることでしょう。非科学的ではありますが、信じる人もいる呪いの儀式、法的に問題は生じるのでしょうか?
今回は刑事責任と民事責任に分けてお話しします。
■相手が死んでも殺人罪や傷害罪にはならない
呪いの儀式のタイプにもよりますが、藁人形のような多くのケースでは、仮にその儀式の直後に呪われた人が死亡したりケガをしたりしたとしても、儀式を行った人たちは殺人罪や傷害罪に問われません。
科学的に考えて「相手に見立てた藁人形にくぎを打つ」という行為は、およそ、死の危険を発生させるものとはいえないからです。このように、性質上、およそ犯罪結果を生じさせるのが不可能な行為によって犯罪結果を発生させようとするケースを「不能犯」といいます。結果発生の危険すらないため、殺人罪のように未遂罪が規定されている犯罪においては、未遂罪すら成立しないと考えられています。
ただ、一般的にこのような呪いの儀式は、相手に対する嫌がらせの目的で行われることが圧倒的に多いといえるでしょう。ですから、例えば、呪いの儀式を撮影したビデオを相手に送り付けるなどした場合には、脅迫罪が成立しうる可能性があります。ビデオを見た人が自殺した場合には、ケース次第ではありますが、自殺教唆罪が成立する可能性も否定できません。また、呪いの儀式の動画をインターネット上に公開した場合には、内容によって、名誉棄損罪、侮辱罪が成立する場合がありうるでしょう。
■損害賠償責任も発生しない
民事責任としては、儀式を行った人たちが相手やその遺族から損害賠償責任を負わなければならないかが問題となります。
まず、呪いの儀式の直後に人が亡くなったり、ケガをしたというだけでは、損害賠償責任を負う必要はありません。不能犯の場合とほぼ同じ理由で、およそ結果を発生させるようなことは何もしていないといえるからです。
しかし、ビデオを送り付けた場合、公開した場合には、ビデオを受け取った、あるいは公開された相手は、これによって精神的に非常につらい思いをします。そのため、慰謝料を支払う責任を負う可能性があります。ビデオ送付、公開により相手が精神を病んで入通院して治療を受けることになった場合には、治療費も財産的な損害として賠償する責任を負います。
さらに、このような仕打ちを受けた人が絶望して自殺したような場合には、死亡そのものに対する財産的損害と慰謝料について、遺族に対して損害賠償責任を負わなければならない場合もあります。
「呪いの儀式」を行うほうは、いたずら半分の気分なのかもしれませんが、その行為は人を傷つけ、自身も大きな代償を払うことになりかねないということです。
*著者:弁護士 寺林智栄(ともえ法律事務所。法テラス、琥珀法律事務所を経て、2014年10月22日、ともえ法律事務所を開業。安心できる日常生活を守るお手伝いをすべく、頑張ります。)