最近、視覚障害のある女子学生を蹴るなど障がい者が被害者となる暴力事件の報道が何件か続いています。
障がいがある人は、暴行を振るわれても抵抗ができない、あるいは予期できないなどの問題があると考えられます。また、障がい者でなくとも高齢者や幼児などに対する暴力も、同様の問題をはらんでいると言えます。
そこで、今回は、障がい者への暴力は、健常者に対する暴力よりも罪が重くなるのか、暴行の相手がどんな人かによって、刑の重さは変わることがあるのか、についてお話します。
■暴行罪や傷害罪の刑はどのような事情で決まるのか。
暴行罪(刑法208条)の刑を決める最大のポイントは、暴行の態様といえるでしょう。つまり、暴行の態様が悪質であればあるほど、刑は重くなっていきます。
暴行の態様が悪質かどうかを判断するにあたっては、凶器を使用したか(どんな凶器を使用したか)、何人で暴行したか、時間にしてどれくらいだったか(執拗だったかどうか)、被害者の抵抗はどうだったか、被害者との体格差、体力差など、様々な事情が考慮されます。
暴行の結果、被害者に怪我をさせた場合には、傷害罪(刑法204条)が適用されます。傷害罪では、暴行の態様だけでなく、被害者が負った怪我がどの程度のものだったかが、刑を決める上で、非常に大きく考慮されます。
当然、1週間程度の擦り傷、打撲程度の怪我ではなく、骨折や治療に数ヶ月を要するようなけがを負わせた場合、後遺症が残るようなけがを負わせた場合の方が、刑は重くなります。
■障がい者に対する暴力はどのように考えられるか。
障がい者に対する暴力は、まず、暴行の態様という点で、悪質と判断されやすいと言えるでしょう。
例えば、視覚障害がある人のケースであれば、暴行を受けることが予期できないため、防御が著しく困難といえます。手足が不自由な人は、程度の差こそあれ、抵抗することが難しいでしょう。
抵抗ができない人に対して、一方的に暴力をふるっているという点で、態様が悪質と判断されやすい、つまり、刑が重くなりやすいといえます。
また、防御や抵抗ができる場合に比べて、できない場合の方が、怪我を負いやすい、大きな怪我になりやすいともいえます。この点から考えても、障がい者に対する暴力は、刑が重くなりやすいと考えられます。
■暴力に相手と刑の重さの関係
冒頭でもお話したとおり、高齢者や幼児のように、健常者と比較して体力や体格が劣っている人に対する一方的な暴力は、態様が悪質と判断されやすいでしょう。怪我も重くなりやすいので、障がい者と同様に、やはり刑が重くなりやすいといえます。
自分よりも体力や体格等が劣る人に対する暴力、つまり「弱い者いじめ」に対しては、道義的な問題があるだけでなく、当然のことながら、法律の世界でも厳しい対応が取られるということです。
*著者:弁護士 寺林智栄(ともえ法律事務所。法テラス、琥珀法律事務所を経て、2014年10月22日、ともえ法律事務所を開業。安心できる日常生活を守るお手伝いをすべく、頑張ります。)